「板」を見れば市場の中身が見える?
前回まで、私たちは「価格がなぜ動くのか」を市場の内側から追ってきました。
大きな注文が入れば、その数量だけで価格が動くわけではありません。
その瞬間にどれだけのLiquidityがあり、どの価格帯にMarket Depthがあり、どのようなOrder Flowが発生しているのか。
こうした要素が重なりながら、画面上の価格は変化していました。
ここまで分かってくると、次に見たくなるものがあります。
その市場の中身を、実際に画面で見ることはできないのでしょうか。
株式や先物では、「板」と呼ばれる画面があります。
価格ごとに買いと売りの注文情報が並び、市場の奥行きを見るために使われます。
もしFXでも同じように市場の奥行きを見ることができるなら、第04話で追ってきたLiquidityやMarket Depthも、もっと直接確認できそうです。
FXの「板」を見れば、Order FlowやLiquidity、Market Depthといった市場の中身まで見えるのでしょうか?
実際、FXの取引Platformでも、「板」と呼ばれる画面を見ることがあります。
価格が階層状に並び、一見すると市場の内部を覗いているようにも見えます。
ただ、その画面に並んでいるものが何を意味しているのかは、まだ分かりません。
まず確認したいのは、FXで「板」と呼ばれているものが何なのかです。
そして、第04話で追ってきたOrder Flowとは同じものなのでしょうか。
ここからは価格が動く側ではなく、市場を“見る側”へ回ってみます。
最初の手がかりは、Order Bookです。

Order BookとOrder Flowは同じものではない
ここで、新しくOrder Bookという言葉が出てきました。
Order Flowとよく似た名前ですが、この二つは同じものを指しているわけではありません。
第04話では、価格が動く背景を追う中でOrder Flowを見てきました。
今度は「市場を観測する」という視点から、Order Bookとの違いを整理してみます。
Order Bookには何が並んでいる?
Order Book(注文板/注文簿)は、Bid / AskやPrice Level、Sizeなど、価格ごとに並ぶ注文情報の状態を表します。
たとえば、ある価格帯には買い側の注文情報があり、別の価格帯には売り側の注文情報がある。
それらを価格ごとに並べることで、「いま、どの価格帯にどのような注文情報があるのか」を確認できます。
Order Bookから見えるのは、その時点における注文情報の並びです。
ただし、止まった情報という意味ではありません。
注文が追加されたり、取り消されたり、取引が成立したりすれば、その内容も刻々と変化していきます。
Order Bookを見ていけば、価格ごとの注文情報がどのように変化しているのかも追うことができます。
では、FXの取引Platformで「板」と呼ばれている画面は、このOrder Bookとどのような関係にあるのでしょうか。
それを確認する前に、もう一つ整理しておきたいのがOrder Flowとの違いです。
Order Flowとは何が違うのか
一方、Order Flowは第04話で追ってきたように、実際に成立する取引から現れる買いと売りの流れを見る考え方です。
ここで二つを並べてみると、違いが見えてきます。
Order Bookでは、
「いま、どの価格帯にどのような注文情報があるか」
を観測します。
Order Flowでは、
「実際に成立する取引から、どのような買い・売りの流れが生じているか」
を追います。
似た情報に見えても、観測している対象は同じではありません。
たとえばOrder Bookに数量が並んでいても、それだけで、その後どのような取引が発生するのかまで決まるわけではありません。
反対に、取引が発生したという情報だけを見ても、その瞬間にOrder Bookの各Price Levelがどのような状態だったのかをすべて説明できるわけではありません。
・Order Book:価格ごとの注文情報
・Order Flow:実際に成立する取引から現れる買い・売りの流れ
ここまでで、「板を見る」という話が少し具体的になってきました。
では、Traderが取引Platformで目にする「板」には、実際には何が表示されているのでしょうか。
そこで次に見ていくのが、DOM(Depth of Market)です。

DOMには何が見えている?
Order BookとOrder Flowの違いが見えてきたところで、今度は取引Platformに表示される「板」へ視点を戻してみます。
ここで登場するのが、DOM(Depth of Market)です。
DOMは価格を階層状に表示し、データが提供されている場合には数量なども確認できる画面です。
見た目だけなら、Order Bookをそのまま覗いているようにも見えます。
ただし、DOMという画面が表示されていても、外部のOrder Bookを見ているとは限りません。
MetaTrader 5の公式仕様を見ると、この違いが分かりやすく表れています。
取引所へ接続するExchange Modeでは、外部Exchangeから提供される価格やOrder VolumeをDOMに表示できます。
一方、OTCではDOMがFX業者のQuoteを基に形成される場合があります。
さらにFX業者から数量情報が提供されていない場合には、現在のBid / AskとPrice Stepをもとに価格階層を表示することもあります。
同じDOMという見た目でも、そこに表示されているものの意味は同じとは限らないということです。
Best Bid / Best Ask
DOMには、Best Bid / Best Askが表示されることがあります。
Best Bidは最も高いBid、Best Askは最も低いAskです。
ただし、ここでは「Best」という言葉だけを見て、その範囲まで決めつけないでおきます。
どのデータをもとにDOMが作られているのかによって、「Best」が何を基準にしているのかも変わります。
いま確認しておきたいのは、
Best Bid / Best Askにも、元になるデータがある
という点です。
価格の奥に並ぶLiquidity
DOMにDepthが表示される場合、Best Bid / Best Askに続いて複数のPrice Levelが並びます。
たとえばBest Bidの下には、さらに低いBid。
Best Askの上には、さらに高いAsk。
そこにSizeや数量が表示されていれば、各Price Levelにどの程度のLiquidityが示されているのかを見る手がかりになります。
第04話で追ってきたMarket Depthという考え方が、ここで価格階層や数量という画面上の情報につながってきます。
ただし、同じDOMという表示でも、その中身は元データによって変わります。
同じDOMでも、中身は同じとは限りません。
確認するのは、元になっているデータです。
ここまでで、DOMに価格階層や数量が表示されることは見えてきました。
次に確かめたいのは、その数字がどこから来たものなのかです。
その「板」は、いったいどこの市場を映しているのでしょうか。

その「板」はどこの市場を映している?
DOMに表示される価格や数量は、元になるデータによって意味が変わります。
ここまで来ると、「板があるかどうか」だけを見ても十分ではないことが分かってきます。
では、その板はいったいどこの情報を映しているのでしょうか。
第03話で見てきたように、Spot FXにはすべての取引が集まる一つの中央取引所があるわけではありません。
Spot FXの取引は、複数のVenueや取引先との直接取引などに分散しています。
そのため、Order Bookが見えていたとしても、それをそのままSpot FX全体だと考えることはできません。
Spot FXにも実在するOrder Bookはある
Spot FXにも、Order Bookを持つVenueは実際に存在します。
その一例がEBS Marketです。
EBS MarketではCentral Limit Order Book(CLOB)が使われ、Bid / OfferやSize、複数のPrice LevelといったOrder Bookの情報を確認できます。
つまり、
「Spot FXはOTCだから、Order Bookは存在しない」
と考えるのも正確ではありません。
ただ、ここで見えているのはEBS MarketというVenueのOrder Bookです。
Spot FXにはEBS Market以外のVenueや直接取引もあり、それらの情報や取引がEBS MarketのOrder Bookへすべて集約されるわけではありません。
同じUSD/JPYを見ていたとしても、どのVenue・どのデータを観測しているかによって、画面に見えるPrice LevelやSizeは変わり得ます。
先ほど見たBest Bid / Best Askも、ここにつながります。
「Best」と表示されていても、まず見たいのは、
どの範囲の中でのBestなのか
という点です。
たとえばEBSでは、市場内で見えるBest Priceと、取引当事者間の信用関係を踏まえて実際に取引可能なBest Dealable Priceが区別されています。
第02話で見た「信用」が、ここでは見えている価格と、実際に取引可能な価格の違いにも関わってきます。
一つのOrder Book=市場全体ではない
ここまで追ってくると、「板」の見え方が少し変わってきます。
Order Bookがある。
Price Levelも見える。
Sizeも表示されている。
それでも、その一枚がSpot FX全体の注文状況を表しているわけではありません。
Spot FXでは、取引の場そのものが分散しているためです。
Order Bookを見るとき、見るべきなのは、
「板が本物か?」ではなく、「このOrder BookはどのVenue・どの範囲を映しているのか?」
という点です。
Order Bookには観測できる範囲がある
一つのOrder Book=Spot FX全体ではない
これで「板」を見るときの範囲は見えてきました。
ただ、もう一つ確認したいことがあります。
あるVenueのOrder Bookを見ていることが分かったとして、そこに存在するLiquidityはすべて画面に見えているのでしょうか。
次は、見えているLiquidityと、画面にはそのまま現れないLiquidityへ視点を移します。

見えているLiquidity、見えていないLiquidity
一つのOrder BookがSpot FX全体を表しているわけではない。
ここまでは見えてきました。
では、観測しているVenueを特定できれば、そこにあるLiquidityはすべて見えるのでしょうか。
ここでは、「画面に見えているもの」と「そこに存在するもの」を分けて見ていきます。
まず目に入るのは、Order BookやDOMに表示されているLiquidityです。
Price LevelごとにSizeが表示されていれば、
「この価格帯には、いまこれだけの数量が表示されている」
という情報を確認できます。
こうした画面上で確認できるLiquidityを、ここではVisible Liquidityとして見ていきます。
第04話では、Market Depthが価格の動きと関係することを追いました。
そのDepthを観測するとき、まず手がかりになるのが、こうした表示数量です。
ただし、表示されている数量と、存在するLiquidityの全量が必ず同じとは限りません。
Iceberg Order――表示されない数量
その具体例として見ておきたいのが、Iceberg Orderです。
EBS Marketでは、注文数量のすべてを画面へ表示せず、その一部だけをOrder Bookへ表示できる仕組みがあります。
表示されていない残りの数量も、非表示のまま注文の一部として残り、取引対象になります。
つまり、画面に見えているSizeだけを見て、
「このPrice Levelに存在するLiquidityはこれですべて」
と判断することはできません。
ここでいうHidden Liquidityは、「どこかに必ず大量の注文が隠されている」という意味ではありません。
Venueや注文タイプによっては、画面に表示されないLiquidityが存在し得る仕組みがあるということです。
Visible Liquidity:画面に表示されているLiquidity
Hidden Liquidity:表示されないLiquidityが存在する場合もある
Stop Orderはどこまで見える?
ここからは、Hidden Liquidityとは少し違う「見えないもの」も確認してみます。
その一つがStop Orderです。
ただし、ここはVenueや注文タイプによって扱いが異なるため、一括りにはできません。
たとえばCME Globexでは、Stop Orderは受け付けられた時点ですぐOrder Bookへ並ぶのではなく、市場でTrigger Priceが取引されることで発動します。
そのため、発動前のStop Orderを通常のOrder Bookから確認することはできません。
ただし、これはCME Globexで確認できる一例です。
「FXのStop Orderはすべて板から見えない」
と、そのままSpot FX全体へ広げることはできません。
ここまで追ってくると、Order Bookの見方がもう一段変わってきます。
Venueが分かった。
Order Bookも見えている。
Sizeも表示されている。
それでも、画面に見えている情報だけで、その場所にある注文やLiquidityのすべてを把握できるとは限りません。
Order Bookとは別に、市場で起きている動きを観測するデータはないのでしょうか。
今度は、板とは別の観測データへ視点を移します。
次に見るのは、Tick Volumeです。

Tick Volumeは何を数えている?
Order Bookでは、並んでいる注文情報を観測してきました。
ただ、画面に見えている注文がすべてではないことも分かりました。
そこで今度は、板とは別の観測データへ視点を移してみます。
MT4やMT5のチャートを見ていると、Volumeと表示された棒グラフを目にすることがあります。
では、あのVolumeは実際に何Lot取引されたのかを表しているのでしょうか。
ここで出てくるのが、Tick Volumeです。
MT4 / MT5のVolume表示
まずMT5の仕様から見てみます。
MT5では、Tick Volumeと実際に成立した取引のVolumeは別のデータとして扱われています。
Tick Volumeが数えているのは、
そのBarが形成されている間に受信したTickの数
です。
たとえば、ある1分足が完成するまでにTickを100回受信したなら、そのBarのTick Volumeは100になります。
これは、
「100Lot取引された」
という意味ではありません。
あくまで、その時間の中で何回Tickを受信したのかを数えています。
MT4でも、MQL4のiVolume()やVolume[]で取得できるVolumeは、BarごとのTick Volumeとして扱われます。
つまり、MT4やMT5のチャートでVolumeを見たときには、まず、
「この数字は何を数えているのか?」
を確認する必要があります。
Tick Volume = 取引Lot数ではなく、受信したTick数
Tick Volumeと実取引Volume
ここで、Tick Volumeを「偽物の出来高」と片づけるのも正確ではありません。
Tick Volumeは、実際の取引数量を数えたVolumeではなく、別のものを観測しているデータです。
Barが形成される間に受信したTick数を記録しています。
MT5では、この違いがデータ構造にも表れています。
tick_volumeとreal_volumeは別々の項目として管理されており、OTCでは実際に成立した取引Volumeが利用できない場合があります。
ここで見分けたいのは、どちらが「本物」でどちらが「偽物」かではありません。
見ている数字が、
Tick数なのか。
実際に成立した取引数量なのか。
そこを分けることです。
これで、MT4 / MT5に表示されるVolumeの正体は少し見えてきました。
Tick Volumeから分かるのは、何Lot取引されたかではありません。
では、次はどうでしょう。
実際に成立した取引数量を記録している市場なら、Volumeをそのまま観測できるのでしょうか。
その手がかりとして、次に見るのがCME FX Futuresです。

CME FX Futuresなら「取引量」が見える?
Tick Volumeが数えているのは、実際に何Lot取引されたのかではなく、受信したTickの数でした。
では、実際に成立した取引数量が記録される市場ならどうでしょうか。
ここで視点を向けるのが、CME FX Futuresです。
Spot FXとは市場の仕組みが異なりますが、ここにはTick Volumeとは違う「Volume」を観測できる窓があります。
CME FX Futuresで見えるVolume
CME FX Futuresでは、取引所で実際に成立した取引が記録されます。
そこで見るVolumeは、一定期間に何Contract取引されたのかを示すものです。
たとえば、ある時間帯にどれだけのContractが成立したのか。
こうした実際の取引記録をもとにVolumeを見ることができます。
先ほど見たTick Volumeとは、ここが大きく違います。
Tick Volumeは、
受信したTick数。
CME FX FuturesのVolumeは、
そのFutures市場で実際に取引されたContract数。
同じ「Volume」という言葉が使われていても、数えているものは同じではありません。
CME FX Futuresでは、実際に取引されたContract数をVolumeとして観測できます。
では、このVolumeをそのままSpot FX全体の取引量と考えてよいのでしょうか。
ここで、もう一度観測している範囲を確認してみます。
Spot FX全体のVolumeではない
CME FX Futuresで見えているVolumeは、確かに実際に成立した取引量です。
ただし、それは、
CME FX Futuresという市場で成立した取引量
です。
Spot FX全体の取引量ではありません。
第03話で見たように、Spot FXは一つの中央取引所へすべての取引が集まる市場ではありません。
一方、CME FX Futuresは、CMEという取引所で取引されるFutures市場です。
同じFXという大きなテーマに関わっていても、観測している市場そのものが違います。
実際、CMEでもEBS Spot FXとFX Futuresは別の市場として扱われています。
つまり、
CME FX FuturesのVolume = Spot FX全体のVolume
と置き換えることはできません。
ここでも「本物か偽物か」という分け方ではなく、
このVolumeは、どの市場の取引を数えているのか
を見る必要があります。
これで、Volumeについても少し見方が変わってきました。
Tick Volumeには、Tick Volumeが数えているものがある。
CME FX FuturesのVolumeには、その市場で成立した取引が記録されています。
違っているのは、観測している対象と範囲です。
では、こうしたVolumeを、時間だけでなくPrice Levelごとにもっと細かく見ることはできるのでしょうか。
どのPrice Levelで、どれだけの取引が起きたのかまで見る方法はあるのでしょうか。
次に見るのは、Footprint ChartとVolume Profileです。

Footprint ChartとVolume Profileは何を見せている?
CME FX Futuresでは、実際に取引されたContract数をVolumeとして観測できることが分かりました。
では、そのVolumeをもっと細かく見ていくと、何が見えてくるのでしょうか。
通常のチャートでは、一本のBarごとに値動きがまとめられ、その下にVolumeが表示されることがあります。
実際の取引データをさらに細かく見ると、その一本のBarの中でも、取引はPrice Levelごとに記録されています。
どのPrice Levelで、どのようなVolumeが記録されていたのか。
そこまで細かく見ようとすると、また別の観測方法が登場します。
Footprint Chart――Price Levelを細かく見る
その一つが、Footprint Chartです。
Footprint Chartは、一本のBarの中をさらにPrice Levelごとに分け、そこで記録された取引Volumeなどを細かく可視化するChartです。
Platformによって表示方法や計算方法は異なりますが、実装によっては、
- Bid Volume
- Ask Volume
- Total Volume
- Bid / Askの差
といった情報を見ることができます。
つまり、通常のローソク足では一本にまとまっていた時間帯を、
「その中のどのPrice Levelで、どのような取引Volumeが記録されたのか」
という角度から観測できるわけです。
ただし、ここでFootprint ChartとOrder Bookを同じものとして考えない方がよさそうです。
Order Bookで見てきたのは、価格ごとに並ぶ注文情報でした。
一方、Footprint Chartでは、元になっているVolumeデータをPrice Levelごとに分けて可視化する実装があります。
見た目はどちらもPrice Levelごとの数字が並びますが、観測しているものは同じとは限りません。
Volume Profile――Volumeを価格帯から見る
もう一つが、Volume Profileです。
通常のVolume表示では、時間の流れに沿って「このBarではどれだけのVolumeが記録されたか」を見ます。
Volume Profileでは、その見方を少し変えます。
一定期間に記録されたVolumeを、Price Levelごとに集計して並べるのです。
すると、
「この時間にどれだけVolumeがあったか」
ではなく、
「この価格帯にどれだけVolumeが集まっていたか」
という形で市場を観測できます。
同じVolumeでも、時間方向に見るのか、価格帯方向に見るのかで、見えてくる形は変わります。
Footprint ChartとVolume Profile。
どちらも、Volumeをより細かく観測するための方法です。
ただ、表示される情報が細かくなったからといって、見えている市場の範囲まで自動的に広がるわけではありません。
元Dataはどこから来ている?
ここが、Footprint ChartやVolume Profileを見るときに確認したいところです。
どれだけ細かな数字が並んでいても、そのChartには元になっているデータがあります。
たとえば、元データがCME FX Futuresの取引データなら、そこで観測しているのはCME FX Futuresです。
別のVenueや取引環境から得られたデータなら、そのデータが観測している範囲も変わります。
Footprint ChartやVolume Profileという表示形式そのものが、Spot FX全体の取引を集めてくれるわけではありません。
Chartを細かくしても、元データの範囲は変わりません。
だから、高度なChartを見るときほど、
「何が表示されているか」だけでなく、「何のデータを加工しているのか」
を確認する必要があります。
ここまで見てきたOrder BookやDOM、Tick Volume、CME FX Futures、Footprint Chart、Volume Profile以外にも、市場を観測する材料はあります。
たとえば、FX OptionsやNew York Cut(NY Cut)という言葉を目にすることもあります。
ただし、これらがSpot FXとどのように関わるのかは、ここではまだ追いません。
いま確認しておきたいのは、板やVolumeだけが市場を見る唯一の窓ではないということです。
では、窓を増やしていけば、いつかSpot FX全体を一枚の画面で見ることができるのでしょうか。
さまざまな観測データを集めれば、Spot FX全体を一枚の窓から見ることはできるのでしょうか。
次は、ここまで使ってきた「窓」を一度まとめてみます。

一枚の窓からSpot FX全体を見ることはできない
ここまで、市場を見るためのさまざまな窓を覗いてきました。
Order BookやDOMでは、Price LevelやSizeがどのように表示されるのかを見てきました。
ただし、そのOrder Bookが映しているのは特定のVenueやデータの範囲です。
さらに、Iceberg Orderのように表示されないLiquidityが存在する仕組みもあり、Stop OrderもVenueや注文タイプによっては発動前の段階で通常のOrder Bookから確認できない場合があります。
つまり、板が見えていても、そこに存在する注文やLiquidityのすべてが見えているとは限りません。
そこで、板とは別の観測データにも視点を移しました。
MT4やMT5のTick Volumeが数えているのは、実際の取引数量ではなく受信したTickの数です。
一方、CME FX Futuresでは、実際に取引されたContract数をVolumeとして観測できます。
ただし、それはCME FX Futuresという市場の取引量であり、Spot FX全体の取引量へ置き換えることはできません。
さらにFootprint ChartやVolume Profileを使えば、元になっているVolumeをPrice Levelという別の角度から細かく観測することもできます。
それでも、Chartを細かくしたからといって、元データの範囲が変わるわけではありません。
ここまで追ってきたものを並べてみると、少し不思議なことに気づきます。
Order Bookもある。
DOMもある。
Tick Volumeもある。
CME FX FuturesのVolumeもある。
Footprint ChartやVolume Profileもある。
どれも、市場を見るための手がかりです。
けれど、それぞれが見ているものは同じではありません。
注文情報を見ているのか。
Tickを数えているのか。
特定の市場で成立した取引を見ているのか。
元になっているVolumeをPrice Levelごとに可視化しているのか。
観測する窓が変われば、見えている市場の範囲も変わります。
だから、「FXの『板』は本物なのか?」という最初の疑問も、ここまで来ると少し形が変わってきます。
重要なのは「どれが本物か」ではなく、「そのデータが市場のどこを映しているか」です。
一枚の窓から、Spot FX全体を完全に見ることはできません。
だからこそ、市場データを見るときには、
何が表示されているのか。
そして、
どの市場・Venueを、どの範囲まで観測しているのか。
そこを確かめることが重要になります。
ここまで私たちは、市場の奥へ向かってさまざまな窓を覗いてきました。
あなたが毎日見ている取引画面は、いったい市場のどこを映しているのでしょうか。

まとめ――では、あなたのチャートは何を映している?
ここまで、市場を見るためのさまざまな「窓」を追ってきました。
どのデータにも、それぞれ観測している対象と範囲がありました。
そして、一枚の窓からSpot FX全体を完全に見ることはできませんでした。
では、ここで一番身近な画面へ視点を戻してみます。
私たちが普段見ている、MT4やMT5の取引画面です。
MT4やMT5では、USD/JPYのチャートやBid / Askを日常的に目にします。
価格は動き続け、その数字を見ながら私たちは買ったり、売ったりしています。
あまりにも日常的に見ているので、その価格そのものについて、
「どこから来た数字なのか?」
と考える機会は少ないかもしれません。
しかし、ここまで市場を観測してきた今なら、少し違って見えます。
Order Bookには、どのVenueを見ているのかという範囲がありました。
Volumeにも、何を数えているのか、どの市場を観測しているのかという違いがありました。
Footprint ChartやVolume Profileにも、元になっているデータがありました。
だとすれば、私たちのチャートに表示されている価格にも、
「この価格は、どこから来たデータなのか?」
という同じ問いを向けることができます。
150.100。
150.101。
私たちは普段、その数字が動くことには注目します。
けれど、その数字がどこから届き、なぜこのBid / Askとして画面に表示されているのかは、まだ追っていません。
ここから先に進むと、
Price Feed(価格配信)
Price Source(価格の供給元)
Broker Feed
Liquidity Source
といった言葉が見えてきます。
ただし、ここではまだ名前だけにしておきます。
どこから価格を受け取り、それがどのようにTraderの画面へ届くのか。
その仕組みは、次の旅で追うテーマです。
第05話では、市場を「見る」方法を追ってきました。
そして今度は、その視点を自分のチャートにも向けることができます。
何を見ているのか。
そして、
そのデータはどこから来ているのか。
さらに、
どの範囲を映しているのか。
そこまで含めて見ていくと、その窓が何を見せているのかが少しずつ分かってきます。
この考え方は、遠くにあるOrder BookやCME FX Futuresだけの話ではありません。
いま目の前にある、いつものチャートにも戻ってきます。
自分が見ている価格にも、「どこから来たデータなのか」という問いがあります。
ここまで市場の奥へ進んできた旅は、ここで一度折り返します。
次は、市場の向こう側をさらに覗くのではありません。
市場からTraderの画面まで、価格がどのような道を通って届いているのか。
次は、その道筋を市場側からTraderの画面へ向かって追ってみます。
市場全体が見えないことは分かりました。では――あなたが毎日見ている「価格」は、誰が届けているのでしょうか?

次回|FX市場の裏側・第06話
市場を観測する「窓」には、それぞれ見えている範囲がありました。
では――
あなたが毎日見ているBid / Askは、いったい誰が届けているのでしょうか。
次回は、Price FeedやPrice Sourceを手がかりに、市場からTraderの画面まで価格が届く道を追っていきます。
参考資料・出典
本記事では、Spot FXの市場構造、Order Book / DOM、Liquidity、Tick Volume、CME FX Futures、Footprint Chart / Volume Profileなどを確認するため、以下の資料を主に参照しました。
主要資料
Bank for International Settlements(BIS)|The FX trade execution landscape through the prism of the 2025 BIS Triennial Survey
Spot FXがOTCで取引され、複数のVenueやDealer、取引経路へ分散した市場であることを確認するために参照。
https://www.bis.org/publications/fx-trade-execution-landscape-through-prism-2025-bis-triennial-survey
Bank for International Settlements(BIS)|Dealer-customer and inter-dealer trading in a fragmented spot market
Spot FXの断片化した市場構造と、単一のVenueやOrder Bookだけでは市場全体を表せないことを確認するために参照。
https://www.bis.org/publications/dealer-customer-and-inter-dealer-trading-fragmented-spot-market
CME Group|EBS Spot FX
Spot FXにもCentral Limit Order Book(CLOB)を持つVenueが実在し、EBS MarketのOrder Bookが特定Venueの市場情報であることを確認するために参照。
https://www.cmegroup.com/market-data/browse-data/catalog/ebs-spot-fx.html
MetaTrader 5 Help|Depth of Market
MT5のDOMが、取引所接続時とOTC取引時で異なるデータを表示し得ること、OTCではFX業者のQuoteやBid / Askを基に価格階層が形成される場合があることを確認するために参照。
https://www.metatrader5.com/en/terminal/help/trading/depth_of_market
MetaTrader 5 Help|Price Data
Tick VolumeがBar形成中に受信したTick数であり、実際に成立した取引Volumeとは区別されていること、OTCでは実取引Volumeが利用できない場合があることを確認するために参照。
https://www.metatrader5.com/en/terminal/help/trading_advanced/price_data
CME Group|EBS Workstation User Guide / Iceberg Orders
EBS MarketのIceberg Orderでは、注文数量の一部のみを表示し、非表示の数量が注文の一部として残り得ることを確認するために参照。
https://www.cmegroup.com/tools-information/webhelp/ebs-workstation-quick-guide/Content/EBS-Workstation-User-Guide.pdf
https://www.cmegroup.com/tools-information/webhelp/ebs-workstation-quick-guide/Content/IcebergOrders.html
CME Group|Futures Order Types
CME GlobexのStop OrderがTrigger前には通常のOrder Bookへ入らない仕組みを確認するために参照。
https://www.cmegroup.com/education/courses/things-to-know-before-trading-cme-futures/futures-order-types
CME Group|FX Market Profile
CME FX Futuresでは実際に取引されたContractのVolumeを観測できる一方、それがSpot FX全体の取引量を表すものではないことを確認するために参照。
https://www.cmegroup.com/markets/ebs/fx-market-profile.html
実務上の参考資料
MQL4 Reference|iVolume / Volume
MT4で扱われるVolumeがBarごとのTick Volumeであることを確認するために参照。
https://docs.mql4.com/series/ivolume
https://docs.mql4.com/predefined/volume
MQL5 Reference|MqlRates
MT5のデータ構造でtick_volumeとreal_volumeが別の項目として管理されていることを確認するために参照。
https://www.mql5.com/en/docs/constants/structures/mqlrates
Sierra Chart|Numbers Bars
Footprint系Chartの一例として、Price LevelごとのBid Volume / Ask Volume / Total Volumeなどを表示できる実装を確認するために参照。
https://www.sierrachart.com/index.php?page=doc/NumbersBars.php
Sierra Chart|Volume By Price Study
一定期間のVolumeをPrice Levelごとに集計して表示するVolume Profileの考え方を確認するために参照。
https://www.sierrachart.com/index.php?ID=141&Name=Volume_by_Price&page=doc/StudiesReference.php
CME Group|FX Options Expiration Time Change
FX OptionsやNew York Cut(NY Cut)という、板やVolumeとは異なる市場観測の手がかりが存在することを確認するために参照。
https://www.cmegroup.com/education/lessons/fx-options-expiration-time-change
※Spot FXは複数のVenue・Dealer・Liquidity Poolなどに分散しているため、特定のOrder Book、DOM、Volume、ChartだけでSpot FX全体を表しているとは限りません。
※Footprint Chartなどの表示内容・計算方法はPlatformによって異なります。本記事では、個別Platformの実装をFX市場全体の共通仕様として扱わないよう留意しています。
※FX Options / NY Cutについては、本記事では市場を観測する別の手がかりとして名称のみ取り上げ、Options PricingやGreeks、Spot FXへの具体的な影響については扱っていません。










