【FX市場の裏側|第01話】あなたの1ロットはどこへ行く?Aブック・BブックとFX注文の裏側!

目次

自分の注文で、なぜチャートは動かない?

FXを始めてから15年以上になりますが、トレードを続けるなかで、ふと疑問に思ったことがあります。

「自分が出した注文で、チャートが動くことはあるのだろうか?」

たとえば、ドル円を1ロット買ったとします。

注文ボタンを押した瞬間にポジションは建ちます。しかし、チャートを見ても特に何かが起きたようには見えません。

自分が買ったからといって、価格が上にピクッと動くわけでもありません。

最初は単純に、「1ロット程度では、注文が小さすぎるからだろう」と考えていました。

では、10ロットならどうでしょう? 100ロットなら?さらに1,000ロットなら?

注文する数量を増やしていけば、いつかは自分の注文によって価格が動くのでしょうか。

ここまで考えて、もう一つの疑問が出てきました。

そもそも、自分が出した注文はどこへ行っているのでしょうか?

私たちは普段、FX業者の取引画面で「買い」や「売り」のボタンを押します。

注文が約定すればドル円を買ったり売ったりしたことになりますが、その裏側で何が起きているのかを見ることはできません。

「市場でドル円を買った」と考えるのが自然ですが、では、その「市場」とはどこにあるのでしょうか。株式であれば東京証券取引所のような取引所をイメージできます。

ところがFXは、少し事情が違います。

さらに調べていくと、

・Aブック
・Bブック
・カバー取引
・LP (Liquidity Provider)
・インターバンク市場

といった言葉が次々に出てきます。

そして分かってくるのが、私たちが普段何気なく押している「買い」「売り」のボタンの向こう側には、思っている以上に複雑な仕組みがあるということです。

よく「Aブック」について、「顧客の注文を市場に流す方式」と説明されます。

一方、「Bブック」については、「顧客の注文を市場に流さず、FX業者の内部で処理する方式」などと説明されます。

これだけを見ると簡単な話に思えます。

しかし、ここでまた疑問が出てきます。

・「市場に流す」の「市場」ってどこ?
・自分の1ロットが、そのまま1ロットの注文としてどこかへ送られているの?
・Bブックで内部処理されているなら、自分の注文は価格形成にまったく影響しない?
・Aブックなら、自分の注文はチャートを動かす可能性がある?

こうして掘り下げていくと、

「Aブック=市場に流す」
「Bブック=市場に流さない」

という説明だけでは、どうも話が足りないことに気づきます。

そして、この仕組みを理解すると、FX界隈でよく聞く、

「AブックのFX業者は安全」
「Bブックはノミ業者だから危険」
「NDDなら注文はインターバンクへ流れる」

といった話についても、本当にそこまで単純なのか?という疑問が出てきます。

この記事では、難しい専門用語を並べるところから始めるのではなく、

自分が出したFX注文は、いったいどこへ行くのか?

というところから、Aブック・Bブックの仕組みを順番に追っていきます。

自分の1ロットはどこへ行くのか…そして、本当に「市場」に流れているのか…。

まずはその入口として、私たちがFXで注文したとき、いったい誰を相手に取引しているのか
から見ていきましょう。

そもそも、あなたのFX注文は誰と取引している?

先ほど、

「自分が出したFX注文は、いったいどこへ行くのか?」

という疑問を投げかけました。
この疑問を考える前に、もう少し手前から見てみましょう。

そもそも私たちはFXでドル円を買ったとき、誰を相手に取引しているのでしょうか?

普段トレードしていると、これを意識する機会はほとんどありません。

取引画面には、「USD/JPY 150.000」といったレートが表示されています。

そこで「買い」を押せば買える。 「売り」を押せば売れる。

あまりにも当たり前に取引できるので、その向こう側に誰がいるのかを考える必要がないのです。

しかし、Aブック・Bブックを理解するためには、この「取引相手」が非常に重要になってきます。

FX業者でドル円を買ったとき、誰から買っている?

たとえば、あなたがFX業者でドル円を1ロット買ったとします。

感覚的には、こんな流れをイメージするかもしれません。

あなた → FX業者 → FX市場

つまり、FX業者は注文を受け付ける窓口で、その先に巨大な「FX市場」があり、自分の買い注文がそこへ送られている。

株式取引を経験したことがある人なら、なおさらこのイメージを持ちやすいかもしれません。
株式の場合、証券会社を通して取引所へ注文を出すという構造をイメージしやすいからです。

たとえば東京証券取引所に上場している株を買うのであれば、

投資家 → 証券会社 → 取引所

という流れを思い浮かべることができます。 そのためFXについても、

トレーダー → FX業者 → FX市場

という似た構造を想像してしまいます。

ところが、ここに一つ大きな違いがあります。

私たちが一般的なFX業者で行っている取引は、株式のように一つの取引所へ注文を集めて売買する仕組みとは異なります。

FXは基本的に、OTC(Over The Counter:店頭取引)を中心とする市場だからです。

「店頭取引」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。

ここではひとまず、

「世界中のFX注文が、一つの巨大な取引所に集まって売買されているわけではない」

と考えておけば十分です。

これだけでも、最初に持っていたイメージが少し変わってきます。

では、もう一度考えてみましょう。

あなたがFX業者でドル円を1ロット買ったとき、その注文はどこへ行くのでしょうか?

巨大な「FX取引所」のような場所へ送られているのでしょうか?

実は、そう単純な話ではありません。

FXには東京証券取引所のような「世界共通の取引所」がない

ここがFXを理解するときに、少しややこしいところです。

株式には東京証券取引所、ニューヨーク証券取引所、NASDAQなど、注文が集まる取引所があります。

もちろん株式市場にも複雑な仕組みはありますが、「どこで取引されているのか」という問いに対して、比較的イメージしやすい答えがあります。

一方、FXには、

「世界中のドル円注文がすべてここに集まっています」

と言える一つの巨大な取引所があるわけではありません。

銀行、金融機関、流動性を提供する事業者、FX業者、機関投資家など、さまざまな参加者が複数の取引関係や電子取引システムを通じて売買しています。

つまりFX市場は、一つの場所に存在する巨大な市場というより、複数の参加者や取引ネットワークがつながることで形成されている市場と考えた方が実態に近くなります。

ここで、少し不思議に思わないでしょうか?

FXについて調べると、「Aブックは顧客の注文を市場に流す」という説明をよく見かけます。

しかし、FXには世界共通の取引所がありません。

では…

その「市場」とは、いったいどこなのでしょうか?

さらに言えば…

FX業者は顧客の注文を、誰に渡しているのでしょうか?

銀行? 別のFX業者? LP(Liquidity Provider)?
それとも「インターバンク市場」と呼ばれる場所でしょうか。

ここから話が一気に面白くなってきます。

そして、この疑問こそが「Aブック」「Bブック」を理解するための重要な入口になります。

ただし、ここでインターバンク市場の奥深くまで入ってしまうと、本題から大きく外れてしまいます。

・インターバンク市場とは、そもそも何なのか?
・取引所がないのに、なぜ世界中でほぼ同じドル円レートが表示されているのか?
・FXの価格は誰が決めているのか?

このあたりは、それだけで一つの記事になるほど奥の深いテーマです。

今はまず、

FXには世界共通の取引所があり、そこへ自分の注文がそのまま送られている…という単純な構造ではない。

ここを押さえておきましょう。

ではFX業者は、私たちから受けた注文をどう処理しているのでしょうか。

ここでようやく登場するのが、「Aブック」と「Bブック」です。

Aブック・Bブックとは?「注文」ではなく「リスク」の行き先を見る

ここまでで、FXには世界共通の取引所があり、そこへ注文が一直線に送られるわけではないことが見えてきました。

では、FX業者は顧客との取引によって生じるリスクをどう処理しているのでしょうか。ここで本題となるAブック・Bブックが登場します。

FXについて調べていると、

Aブック = 顧客の注文を市場へ流す
Bブック = 顧客の注文を市場へ流さない

と説明されていることがあります。

大まかなイメージをつかむには、これでも間違いとは言い切れません。
ただし、実際の仕組みを理解しようとすると、この説明だけでは少し大ざっぱです。

なぜなら、

「顧客から受けた注文」

「その注文によってFX業者が抱える市場リスクをどう処理するか」

は、分けて考えた方が理解しやすいからです。

この違いを意識しながら、AブックとBブックを見ていきましょう。

Aブックとは

Aブックは一般的に、

「顧客の注文を外部の市場やLP(Liquidity Provider)へ流す方式」

などと説明されています。

たとえば、あなたがUSD/JPYを1ロット買ったとします。

FX業者から見ると、顧客がドル円を買ったということは、その値動きに応じて顧客に損益を支払う関係が生まれます。
ドル円が上昇すれば顧客には利益が発生し、反対にFX業者側にはその取引に伴う市場リスクが生じます。

そこでFX業者は、外部の取引相手との間で反対方向のポジションを持つなどして、そのリスクをヘッジできます。

非常に単純化すると、

顧客:USD/JPYを1ロット買う

FX業者:顧客取引によって市場リスクを抱える

FX業者:外部の取引相手との取引によってリスクをヘッジする

という考え方です。

ここで重要なのが、

「Aブック=あなたの注文そのものが、そのまま市場へ転送される」

と考えてしまわないことです。

よく使われる「注文を市場へ流す」という表現は分かりやすい反面、実際の仕組みをかなり単純化しています。

もう少し正確に考えるなら、

FX業者が顧客との取引によって抱えた市場リスクを、外部取引によってヘッジする

という視点が重要になります。

つまり、

あなたが1ロット買った

その1ロットの注文データがそのまま巨大な「FX市場」へ飛んでいく

と単純に考えるのではなく、

あなたとFX業者との取引

FX業者と外部取引先との取引

という別々の取引関係として見るわけです。
もちろん、実際の執行・ヘッジ方法は業者や取引モデルによって異なります。

しかしAブックを理解するときには、

「顧客注文の転送」だけではなく「FX業者の市場リスクを外部へ移転する仕組み」

と考えておくと、この先の話がかなり分かりやすくなります。

では、その外部取引の相手は誰なのでしょうか。

ここで登場するのが、先ほど少し触れた LP(Liquidity Provider)などの存在です。

ただし、LPについて掘り始めると話がかなり深くなるので、ここではいったん、

「FX業者が外部でリスクをヘッジするための取引相手が存在する」

という理解で先へ進みます。

Bブックとは

ではBブックはどうでしょうか。

Bブックは一般的に、

「顧客の注文を市場へ流さず、FX業者の内部で処理する方式」

と説明されます。

これも大まかなイメージとしては分かりやすいのですが、Aブックと同じように、

「注文を流す・流さない」だけで考えると少し分かりにくくなります。

Bブックについても、FX業者が抱える市場リスクをどう処理するのかという視点で考えてみましょう。

あなたがUSD/JPYを1ロット買ったとします。

この顧客取引によってFX業者に生じるリスクを、すぐに外部取引で同量ヘッジするのではなく、業者側で保有・管理する。

これがBブックを理解する基本的な考え方です。

非常に単純化すると、

顧客:USD/JPYを1ロット買う

FX業者:顧客取引によって生じるリスクを内部で管理する

となります。

ここで、「ということは、顧客が負ければFX業者が儲かるのでは?」と思った人もいるかもしれません。

まさに、Bブックについて語られるときに必ずと言っていいほど出てくる疑問です。

確かに、顧客とFX業者の取引だけを切り取った非常に単純なモデルなら、そのような関係を考えることができます。

これが、

「Bブックは顧客と利益相反する」
「Bブックは顧客の負けが利益になる」
「Bブックはノミ業者だ」

といった話につながっています。

ただ、実際のFX業者には当然、一人の顧客しかいないわけではありません。

ある顧客はドル円を買っているかもしれません。
別の顧客はドル円を売っているかもしれません。
さらに別の顧客はポジションを決済するかもしれません。

こうした大量の取引をまとめると、FX業者が実際に抱えているリスクは、

「顧客Aが1ロット買ったから、業者がそのまま1ロット分のリスクを抱え続ける」

というほど単純ではなくなってきます。

顧客同士の取引フローを内部で相殺したり、残ったリスクだけを外部でヘッジしたりすることも考えられます。

つまり、Bブックを、

「顧客の注文を全部FX業者が丸抱えして、顧客が負けるのを待っている仕組み」

と理解するのも正確ではありません。

このあたりは後ほど、内部化・ネッティング・カバー取引という仕組みと一緒に詳しく見ていきます。

図解するとAブックとBブックはどう違う?

ここまでの話を、いったん簡単な図にしてみましょう。

まずAブックです。

【Aブックの基本イメージ】

トレーダー

FX業者

顧客取引によって生じる市場リスク

外部取引によってヘッジ

LPなどの外部取引先

一方、Bブックは、

【Bブックの基本イメージ】

トレーダー

FX業者

顧客取引によって生じる市場リスク

業者内部で保有・管理

というイメージになります。

もっと簡単に言えば、

Aブック

FX業者の外へリスクを移転する

Bブック

FX業者の中でリスクを管理する

という違いとして考えると分かりやすいでしょう。

ただし…ここで一つ注意があります。

この図は、AブックとBブックの違いを理解するためにかなり単純化したものです。

実際のFX業者のリスク管理が、すべてAブックまたは、すべてBブックという綺麗な二択になっているとは限りません。

たとえば、

・ある顧客の取引は内部で相殺する
・一定以上のリスクだけ外部へヘッジする
・市場環境や顧客フローによって処理方法を変える

こうしたことも考えられます。

すると、ここで新しい疑問が出てきます。

「Aブック業者」「Bブック業者」と、業者そのものを二種類に分けてしまって本当にいいのでしょうか?

そしてネット上では、

「勝っている顧客はAブックへ回され、負けている顧客はBブックに入れられる」

という話まで見かけることがあります。 これは本当なのでしょうか?

次は、AかBかという単純な二択では説明できない、A/BハイブリッドとFX業者のリスク管理についてもう少し深く見ていきます。

FX業者は本当にAかBの二択?ハイブリッドという現実

AブックとBブックの基本的な違いが分かると、次に気になるのは、

「では、自分が使っているFX業者はAブックなのか、Bブックなのか?」

ではないでしょうか。

実際にFX業者について検索してみると、

「○○はAブック業者」
「○○はBブックだから危険」
「この業者はNDDだからAブック」

といった情報を見かけることがあります。

こうした情報を見ていると、FX業者はまるで、

Aブック業者またはBブック業者のどちらかに綺麗に分類できるように感じます。

しかし、ここまで見てきたようにAブックとBブックは、そもそもFX業者が顧客との取引によって生じるリスクをどう処理するかという話です。

そう考えると、一つ疑問が出てきます。

FX業者は、すべての顧客・すべての注文を、必ず同じ方法で処理する必要があるのでしょうか?

実はここから、Aブック・Bブックの話が少し複雑になってきます。

すべての注文を同じ方法で処理する必要はない

例えば、あるFX業者に1万人の顧客がいるとしましょう。

当然、その1万人がまったく同じ取引をするわけではありません。

少額で数日に一度しか取引しない人もいれば、何十ロットという注文を頻繁に出す人もいます。

数時間から数日ポジションを保有する人もいれば、数秒で決済するスキャルパーもいます。

さらに、平常時だけ取引する人もいれば、雇用統計や政策金利発表など、大きく相場が動く場面を狙って取引する人もいるでしょう。

FX業者から見れば、こうした注文が生み出すリスクはすべて同じではありません。

さらに重要なのは、顧客一人ひとりの注文だけを見る必要もないという点です。

例えば、

Aさん:USD/JPYを10ロット買い
Bさん:USD/JPYを8ロット売り

という状態なら、非常に単純化すれば、業者全体として残る方向性のあるエクスポージャーは2ロット相当と考えることができます。

10ロットの買い注文が入ったからといって、必ず10ロットを外部でヘッジしなければならないわけではありません。

他の顧客の売買と相殺できる部分もあるからです。

そして、その残ったリスクについても、

すぐにすべてヘッジする

という方法だけではありません。

・一定量までは内部で保有する
・設定したリスク上限を超えた部分だけヘッジする
・特定の通貨ペアのエクスポージャーをまとめて管理する
・市場環境によってヘッジ量を変える

こうしたリスク管理を行うことも考えられます。

つまりFX業者から見れば、重要なのは単純に、

「この注文をAにするか、Bにするか」

だけではありません。

業者全体として、現在どれだけの市場リスクを抱えているのか。

そして、そのリスクをどこまで内部で保有し、どこから外部へ移転するのか。
という問題になってきます。

こう考えると、

「このFX業者はAブック」
「あのFX業者はBブック」

という業者単位の二分法だけでは、実際のリスク管理を十分に説明できないことが見えてきます。

A/Bハイブリッドモデルという考え方

そこで登場するのが、A/Bハイブリッドモデルです。

名前の通り、

AブックとBブックの両方を組み合わせてリスクを管理する

考え方です。

例えば、ある取引フローについては業者内部でリスクを保有する。

一方、別の取引フローについては外部のLPなどとの取引でリスクをヘッジする。

あるいは、最初は内部で管理していたとしても、業者全体のエクスポージャーが一定水準を超えたところで、その一部を外部へヘッジする。

かなり単純化したイメージですが、

顧客の注文

FX業者

内部で吸収・相殺できる部分 → Bブック側で管理
外部へ移転したいリスク → LPなどへヘッジ

という形です。

つまり、

AかBか

ではなく、

AとBをどう組み合わせるか

という発想です。

そして、その判断材料も一つとは限りません。

業界向けのリスク管理資料では、顧客の取引履歴、注文サイズ、取引頻度、商品、市場イベント時の行動、レイテンシーへの敏感さ、業者全体のポジション状況など、さまざまな情報を利用して取引フローを分類・管理する仕組みが説明されています。

ここまで来ると、A/Bブックが単なる「注文の転送方式」ではなく、FX業者にとってのリスク管理そのものだということが見えてきます。

そして、この話を知ると気になってくるのが、FX界隈で昔から語られている、あの話です。

「勝つ客はA、負ける客はB」は本当なのか?

A/Bブックについて調べると、かなりの確率で次のような話に出会います。

・負けている顧客はBブックに入れる
・勝っている顧客はAブックへ回す

なかには、

FX業者は顧客を監視して、勝ち組と負け組に分類している

という説明まであります。

これを聞くと、いかにもFX業界の裏側を暴いた話のように感じます。

では、本当なのでしょうか?

ここは、少し慎重に考える必要があります。

まず確認できることとして、顧客や注文フローの特性に応じてリスク管理方法を変えるという考え方そのものは、実際に業界向けのリスク管理システムやブローカー向け資料で説明されています。

取引履歴、収益性の傾向、注文サイズ、取引頻度、ニュース時の取引、レイテンシーに敏感な取引などをリスク判断の材料とする例もあります。

つまり、

「すべての顧客をまったく同じ方法で処理するとは限らない」

というところまでは、決して荒唐無稽な話ではありません。

では、

「勝っている顧客=Aブック」
「負けている顧客=Bブック」

と断定してよいのでしょうか。

ここは話が別です。

FX業者がリスク管理で見たいのは、単純な勝率だけとは限りません。

例えば、

・継続的に利益を出しているか?
・どの程度の注文サイズなのか?
・どのような時間帯で取引しているか?
・経済指標発表時に集中して取引していないか? 保有時間はどの程度なのか?
・注文フローに特徴がないか?
・そして、その時点で業者全体がどれだけのエクスポージャーを抱えているのか?

さまざまな要素がリスク管理に関係してきます。

極端な例を考えてみましょう。

ある顧客が非常に優秀なトレーダーだったとしても、取引数量が0.01ロットしかなければ、その市場リスクは非常に小さいかもしれません。

逆に、勝率自体は特別高くなくても、100ロット単位の大きなポジションを持つ顧客なら、FX業者にとって無視できないリスクになる可能性があります。

つまり、

「勝っているか、負けているか」

だけでA/Bを説明するのは、やはり単純化しすぎています。

さらにもう一つ、非常に重要な問題があります。

それは、

私たち外部の人間から、そのFX業者の内部ルーティングをどこまで確認できるのか?
という問題です。

あるFX業者が、

・この顧客はBブック
・この顧客はAブック
・この注文だけ外部ヘッジ
・この時間帯だけヘッジ比率を変更

といった内部のリスク管理を行っていたとしても、その詳細がすべて顧客に公開されているとは限りません。

外から見えるのは、FX業者が公開しているExecution PolicyやClient Agreement、約定方針、規制上の開示など、限られた情報です。

したがって、このサイトでは、

「○○社は勝っている顧客をAブックへ回している」

といった話を、根拠なしに事実として扱うことはしません

ここは今後の記事でも重要になるので、情報を3つに分けて考えます。

①確認できる事実

公式資料、規制当局への開示、Execution Policyなどから確認できるもの。

②業界で実際に使われ得る仕組み

ブローカー向けシステムやリスク管理資料などから、その仕組み自体の存在を確認できるもの。

③外部からは確認できないこと

特定のFX業者が、特定の顧客・特定の注文を実際にどう処理しているのか。

この3つは、同じように見えてまったく違います。

「そういう仕組みが存在する」ことと、「あなたが使っているFX業者が実際にそうしている」ことは別の話なのです。

この区別をしないと、

「勝つとAブックに飛ばされる」
「儲けすぎるとマークされる」
「Bブックだからストップ狩りされる」

といった話が、いつの間にかすべて事実であるかのように広がってしまいます。

FXの世界には、こうした「あり得る話」と「確認された事実」が混ざって語られているケースが少なくありません。

だからこそ、このサイトでは、

・分かっていることは分かっている
・可能性として存在するものは可能性
・確認できないものは確認できない

と、できるだけ分けて考えていきます。

さて、ここまでA/Bハイブリッドについて見てくると、もう一つ大きな疑問が出てきます。

Bブックで顧客のリスクを内部に残すのであれば…

やはり、顧客が負けたお金はFX業者の利益になるのでしょうか?

そして、もしそうなら、

なぜFX業者はわざわざAブックへリスクを逃がす必要があるのでしょうか?

次は、Bブックについて最も誤解されやすい、「顧客の損失=FX業者の利益」という話をもう少し深く掘ってみましょう。

Bブックでは「顧客の損失=FX業者の利益」になるのか?

Bブックについて調べると、よくこんな説明を目にします。

「Bブックでは、顧客の損失がFX業者の利益になる」

だから、

「顧客とFX業者は利益相反の関係にある」

さらには、

「顧客に負けてもらった方がFX業者は儲かる」

という話につながっていきます。

ここまで聞くと、Bブックにあまり良い印象を持たないのも無理はありません。

では、本当にそうなのでしょうか。

結論を急がず、まずは最も単純なケースから考えてみます。

最も単純なBブックモデルならどうなる?

話を分かりやすくするため、かなり極端なFX業者を想像してみましょう。

このFX業者には、顧客があなた一人しかいません。

そして、あなたがUSD/JPYを1ロット買ったとします。

FX業者は、この取引によって生じる市場リスクを外部へ一切ヘッジしません。

つまり、完全に業者内部で抱えた状態です。

その後、ドル円が下落し、あなたが10万円の損失でポジションを決済したとします。

非常に単純化すれば、

あなた:-10万円
FX業者:+10万円

という関係になります。

反対にドル円が上昇し、あなたが10万円の利益を得た場合は、

あなた:+10万円
FX業者:-10万円

です。

この二者だけを切り取れば、顧客とFX業者の損益は反対方向になります。

したがって、

「Bブックでは顧客の損失がFX業者の利益になる」

という説明そのものが、まったく根拠のない話というわけではありません。

そして、ここにBブックで指摘される利益相反の問題があります。

顧客が負ければ業者が利益を得る。 顧客が勝れば業者が損失を負う。

これだけを見ると、

「だったらFX業者は顧客に負けてもらいたいのでは?」

と思うのも自然です。

しかし…これはあくまで、

「顧客が一人しかおらず、その取引リスクをFX業者がすべて抱え、外部ヘッジもしない」

という極端に単純化したモデルです。

実際のFX業者には、当然ながら大勢の顧客がいます。

ここから話が変わってきます。

実際には顧客が一人だけではない

例えば、同じFX業者で二人の顧客が取引していたとしましょう。

Aさんは、1ロット BUY
Bさんは、0.7ロット SELL

Aさんだけを見れば、FX業者は1ロット分の買い方向の顧客取引に伴うリスクを抱えているように見えます。

しかしBさんは、反対方向に0.7ロット売っています。

この二人をFX業者全体として見れば、

1.0ロット BUY と 0.7ロット SELL

が反対方向に存在しています。

非常に単純化すると、互いに打ち消し合う部分があります。

残るのは、0.3ロット分のネットエクスポージャーです。

ここが非常に重要です。

FX業者は必ずしも、

Aさんの1ロット
Bさんの0.7ロット

を、それぞれ独立したリスクとして外部へ処理しなければならないわけではありません。

業者全体として見れば、顧客から入ってくる売買をまとめて考えることができるからです。

これが、Bブックを理解するうえで重要になる Internalization(内部化)という考え方につながってきます。

顧客の注文を内部で吸収する「Internalization」

Internalizationを日本語にすると、一般的には内部化などと訳されます。

言葉だけ聞くと難しそうですが、考え方そのものはそれほど複雑ではありません。

FX業者の内部には、

ドル円を買う顧客もいれば、ドル円を売る顧客もいます。
ユーロドルを買う顧客もいれば、ユーロドルを売る顧客もいます。

こうした顧客フローの一部を、外部市場へ逐一ヘッジせず、業者内部で吸収・管理するという考え方です。

先ほどの例なら、

Aさん:1.0ロット BUY
Bさん:0.7ロット SELL

ですから、0.7ロット分については反対方向の顧客フローが存在しています。

そのため、業者全体として考えた場合、1ロットすべてを外部ヘッジしなくても、方向性のあるリスクとして残る部分は小さくなります。

もちろん、実際のFX業者では何千人、何万人という顧客が、複数の通貨ペアをさまざまなタイミングで売買しています。

そのため現実のリスク管理は、この例よりはるかに複雑です。

しかし基本的な考え方としては、

顧客一人の注文を見るのではなく、業者全体の取引フローを見る

ということです。

そして、ここからもう一つ重要な概念が出てきます。

Netting(ネッティング)です。

顧客同士のポジションをネッティングできる

Nettingとは、簡単に言えば相殺して差し引きすることです。

先ほどの例をもう一度使いましょう。

Aさん:1.0ロット BUY
Bさん:0.7ロット SELL

この二つをネットで見ると、

1.0 − 0.7 = 0.3ロット

となります。

つまりFX業者全体では、単純化すると0.3ロット相当の方向性のあるエクスポージャーが残ることになります。

ここにさらに、

Cさん:0.2ロット SELL

が加わったらどうでしょう。

残るネットエクスポージャーは、0.1ロットまで小さくなります。

さらに、

Dさん:0.1ロット SELL

が加われば、単純な数量だけで考えた例では、

BUY 1.0ロット SELL 1.0ロット

となります。

ネットではゼロです。

つまりFX業者は、顧客から合計2ロット分の注文を受けているにもかかわらず、方向性のある市場リスクは大きく相殺されている状態になります。

ここまで理解すると、

「顧客が1ロット買ったら、FX業者は1ロット分の賭けを顧客と反対側でしている」

というイメージが、少し違って見えてくるはずです。

FX業者が見ているのは、一人ひとりの取引だけではありません。

ブック全体として、最終的にどれだけのリスクが残っているのか。

ここが重要なのです。

ただし、現実には買いと売りの数量がいつも綺麗に一致するわけではありません。

買いに大きく偏ることもあります。 売りに大きく偏ることもあります。

そして相場が急変すれば、その偏りがFX業者にとって大きなリスクになる可能性があります。

では、その残ったリスクをどうするのでしょうか。

ここで再び、Aブック側の考え方が登場します。

残ったリスクを外部へヘッジすることもできる

もう一度、最初の例に戻ります。

Aさん:1.0ロット BUY
Bさん:0.7ロット SELL

内部で相殺すると、

0.3ロット相当のネットエクスポージャー

が残ります。

FX業者には、大きく分けて二つの選択肢があります。

一つは、

その0.3ロット相当のリスクを内部で保有する。

もう一つは、

外部の取引相手との取引によって、そのリスクをヘッジする。

つまり、

顧客の取引を内部化する

反対方向のフローをネッティングする

それでも残ったリスクを必要に応じて外部へヘッジする

という流れです。

英語で並べると、

Internalization → Netting → Hedging

です。

この3つを理解すると、Aブック・Bブックの見え方がかなり変わってきます。

最初は、

Aブック = 注文を市場へ流す
Bブック = 注文を市場へ流さない

という二択に見えていました。

しかし実際のリスク管理を考えると、

まず顧客フローを内部で相殺し、それでも残った市場リスクの一部または全部を外部へ移転する

という方法も考えられるわけです。

ここまで来ると、先ほど説明したA/Bハイブリッドモデルが、かなり具体的に見えてきたのではないでしょうか。

そして、冒頭で紹介した、

「Bブックでは顧客の損失がFX業者の利益になる」

という説明も、少し違って見えてきます。

単純な一対一のBブック取引だけを見れば、顧客の損失と業者の損益が反対方向になる関係は確かに存在します。

しかし実際のFX業者全体を見る場合には、

・他の顧客との相殺
・業者全体のネットポジション
・外部ヘッジ
・スプレッドや取引手数料などの収益

なども関係します。

したがって、

「Bブックだから、顧客が10万円負ければFX業者がそのまま10万円儲かる」

と業者全体の収益構造まで単純化してしまうのは正確ではありません。

そして、ここで別の疑問が生まれます。

顧客の売買を内部で相殺できるのであれば、なぜFX業者は、わざわざすべての注文を外部へヘッジしないのでしょうか?

言い換えれば、

FX業者にとって「内部化」することには、どんなメリットがあるのでしょうか。

この疑問が分かると、Bブックが単なる「顧客の負けを利益にする仕組み」ではなく、FX業者のリスク管理とビジネスモデルの一部として使われる理由が見えてきます。

次は、

「なぜFX業者はBブックを使うのか?」

という視点から、もう一段深く見ていきましょう。

「Bブック=ノミ業者=悪質」は正しいのか?

Internalization → Netting → Hedging という流れまで見てくると、Bブックを「顧客が負けるのを待つだけの仕組み」と捉えるのは粗すぎることが分かります。

それでも日本のFX界隈では、Bブックについて、

「Bブック=ノミ業者」
「注文を呑んでいる業者」

そして、

「だからBブックは悪質」

という説明を見かけることがあります。

「ノミ」「呑み」と聞けば、あまり良い印象は持たないでしょう。

何となく、

「客から注文だけ受けて、実際にはどこにも取引していない怪しい業者」

というイメージを持つかもしれません。

しかし、ここまで見てきたA/Bブックの仕組みを踏まえると、

「外部へすぐにヘッジしないこと」と「悪質な業者であること」は、本当に同じなのでしょうか?

ここは一度、分けて考える必要があります。

「呑む」という言葉が混乱を招いている

日本では昔から、顧客から注文を受けながら、それに対応する取引を外部で行わず、自らそのリスクを引き受けることを「呑む」「呑み行為」などと表現することがあります。

この言葉だけを聞くと、

「注文を受けたふりをして、実際には取引していない」

ようにも感じます。

しかし、Bブックを理解する場合には、少し見方を変える必要があります。

先ほど説明したように、FX業者には多くの顧客がいます。

ドル円を買っている顧客もいれば、売っている顧客もいる。

その取引フローを業者内部で相殺できる場合もあります。

そして、相殺した後に残ったリスクについて、

・すべて外部へヘッジするのか?
・一部だけヘッジするのか?
・一定範囲まで内部で保有するのか?

を判断することになります。

つまり、

「顧客の取引に伴うリスクを即座に外部へ移転していない」

という事実だけを見て、

「注文を呑んでいる」

そして、

「だから悪質」

と結論づけるのは少し飛躍があります。

ここで、言葉を整理しておきましょう。

Bブックを理解するうえでは、

「注文を呑む」

という表現よりも、

「顧客取引から生じる市場リスクを内部化する」

と考えた方が、実際のリスク管理を理解しやすくなります。

もちろん、言葉を変えれば利益相反の問題が消えるわけではありません。

重要なのは、

内部化という仕組みそのもの

と、

その仕組みを利用して業者が何をするのか

を分けることです。

Bブックそのものと不正行為は別問題

ここは非常に重要です。

Bブックでは、外部ヘッジされていない顧客取引について、顧客とFX業者の損益が反対方向になる場合があります。

つまり構造上、

顧客が利益を出すとFX業者側に損失が発生し、顧客が損失を出すとFX業者側に利益が発生する

という関係が生じ得ます。

これは、Bブックについて語るうえで無視できない利益相反です。

だからこそ、

「Bブックなら何の問題もない」

と考えるのも適切ではありません。

しかし、

利益相反が存在する可能性がある

ことと、

実際に顧客へ不利益を与える不正な行為をしている

ことも、同じではありません。

例えば、顧客と利益相反する可能性があるからといって、そのFX業者が必ず、

・意図的に不利な価格で約定させる
・顧客のストップロスを狙って価格を動かす
・利益を出した顧客の注文だけ拒否する
・正当な理由なく出金を拒否する

といった行為をしていることにはなりません。

「そうする経済的な動機が生じ得る」ことと、「実際にそれをしている」ことは別問題です。

ここは非常に重要な区別です。

逆に言えば、Bブックだからという理由だけで安心することも、危険と決めつけることもできません。

見るべきなのは、実際にその業者がどのような取引条件を提示し、どのように注文を執行し、どのようなルールで運営しているのかです。

問題なのは注文処理より「何をしている業者なのか」

ここまで来ると、FX業者を評価するときの視点が少し変わってきます。

最初は、

Aブック=良い
Bブック=悪い

という単純な話に見えていました。

しかし本当に確認したいのは、「AなのかBなのか」だけではありません。

例えば、約定です。

注文した価格と実際に約定した価格に差が出ること自体は、必ずしも不正ではありません。

FXでは市場環境によって価格が動き続けているため、スリッページが発生することがあります。

しかし、

・不利な方向のスリッページばかり発生していないか?
・有利な方向への価格改善も適切に反映されているのか?
・約定拒否やリクオートはどのような条件で発生するのか?

となると、話はもう一段深くなります。

さらに、

・ストップロスはどの価格を基準に執行されるのか?
・急変時にはどのような約定ルールになるのか?
・取引を無効にできる条件は何なのか?
・「異常取引」「裁定取引」などを、規約上どのように定義しているのか?

こうした部分も重要です。

そして当然ながら、

・利益を出した後、問題なく出金できるのか?
・出金拒否や利益取消しが行われる場合、その根拠が規約に明示されているのか?
・実際の運用と利用規約に矛盾がないか?

といった点も見なければなりません。

さらに、

・その業者を運営している法人はどこなのか?
・どの国・地域の規制下にあるのか?
・顧客資金はどのように管理されているのか?
・トラブルが起きたとき、どのような救済手段があるのか?

こうした要素は、AブックかBブックかとは別の評価軸です。

つまりFX業者を見るときは、

「注文を外へ流しているから優良」

でも、

「内部化しているから悪質」

でもなく、

その業者がどのようなルールで顧客と取引し、そのルール通りに運営されているのか

を見る必要があります。

これは今後、このサイトで海外FX業者を評価するときにも重要な基準にする予定です。

単純に、

・Aブックだからおすすめ!
・ECNだから透明性が高い!
・NDDだから安心!

という理由だけでFX業者を評価することはしません。

むしろ、

・Aブックだと説明しているが、具体的に何を開示しているのか?
・ECN口座と書いてあるが、そのECNとは何を意味しているのか?
・NDDと書いてあるが、注文執行方針には何と書かれているのか?

というところまで確認する必要があります。

そして、ここで少し面白いことに気づきます。

Bブックについて調べ始めると、「Bブックは悪質なのか?」という疑問を持ちます。

ところが仕組みを理解していくと、今度は逆に、「ではAブックなら、本当に安心なのか?」という疑問が出てきます。

・Aブックなら利益相反はすべてなくなるのでしょうか?
・Aブックを名乗っていれば、約定品質まで保証されるのでしょうか?

そして、「ECN」「STP」「NDD」といった言葉は、A/Bブックとどのような関係にあるのでしょうか?

次は視点を反対側へ移して、「Aブックなら安心なのか?」を考えてみましょう。

Bブックが悪とは限らない。ではAブックなら安心なのか?

Bブックそのものと不正行為を切り分けたなら、反対側も同じ基準で見なければなりません。

では、Aブックなら安心なのでしょうか?

FX業者について調べていると、

・Aブックだから安全
・Aブックだから透明性が高い
・顧客の注文を市場へ流しているから利益相反がない

といった説明を見かけることがあります。

確かに、顧客取引によって生じる市場リスクを外部へヘッジするのであれば、完全に内部化するモデルとは業者が抱えるリスクの構造が変わります。

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみましょう。

Aブックであることは、そのFX業者そのものが安全であることまで意味するのでしょうか?

「Aブックだから安全」という論理も単純すぎる

極端な例を考えてみます。

あるFX業者が、顧客取引によって生じる市場リスクをすべて外部へヘッジしているとしましょう。

つまり、ここでは仮に「完全なAブック」と考えます。

では、その事実だけで、

顧客資金が安全に管理されている

と言えるでしょうか。

もちろん、言えません。

Aブックかどうかと、顧客資金をどのように管理しているかは別の問題です。

では、出金が確実に行われると言えるでしょうか。

これも別問題です。

・運営会社そのものの信用力は?
・どの国の法人が運営している?
・どの金融ライセンスを保有している?
・どのような規制を受けている?
・顧客資金は分別されている?
・会社が破綻した場合、顧客資金はどうなる?
・注文はどのようなルールで約定する?
・スリッページはどう処理される?
・取引を取り消すことができる条件は?
・利益を無効にできる条件は?

こうした問題は、

AブックかBブックかだけでは判断できません。

例えば、

・Aブックであることと運営会社の信用は別です。
・Aブックであることと金融規制の強さも別です。
・Aブックであることと顧客資金の管理方法も別です。
・Aブックであることと約定品質も必ずしも同じ話ではありません。

ここは特に注意したいところです。

「外部へヘッジしている」と聞くと、

「それなら注文も公平に約定するはずだ」

と思いたくなります。

しかし実際の約定を考えると、

・どの価格を顧客へ提示しているのか?
・どのLPなどと取引しているのか?
・どのように価格を集約しているのか?
・注文を受けてからどのように執行するのか?
・スリッページをどう扱うのか?
・外部で約定できなかった場合はどうするのか?

といった別の問題が出てきます。

つまり、

A/BブックはFX業者を見るための一つの評価軸ではあっても、それだけで業者全体を評価できる万能なラベルではない

ということです。

これは非常に重要です。

ここまでの記事を、

「Bブックは実は悪くない。だからBブック業者でも安心」

という話として受け取ってほしいわけでもありません。

逆に、

「Aブックなら安全だからAブック業者を選べばいい」

という話でもありません。

A/Bブックについて知る目的は、

どちらが善で、どちらが悪かを決めることではなく、FX業者がどのようにリスクを処理しているのかを理解することだからです。

そして、FX業者を実際に評価するときには、その先を見る必要があります。

例えば、

・運営会社の信用
・金融ライセンス・規制
・顧客資金の管理
・注文執行方針
・約定品質
・取引条件
・利用規約
・出金条件

などです。

こうして考えてみると、

「Aブックですか?Bブックですか?」

という質問だけでFX業者の安全性を判断すること自体が、少し違って見えてきます。

「ECNだからAブック」「NDDだからAブック」とは限らない

そしてA/Bブックについて調べていると、さらに別の言葉が出てきます。

DD/NDD/STP/ECN です。

例えば海外FX業者の公式サイトや比較サイトを見ると、

・NDD方式を採用
・STP口座
・ECN口座
・Raw Spread口座

といった表現を見かけます。

すると、こんなイメージを持つかもしれません。

DD = Bブック
NDD = Aブック
STP = Aブック
ECN = Aブック

非常に分かりやすい分類です。

しかし…

本当に、こんなに綺麗に対応するのでしょうか?

ここでも、言葉の意味を一度分解して考える必要があります。

Aブック・Bブックは、ここまで見てきたように、主としてFX業者が顧客取引によって生じる市場リスクをどう管理するのかという視点から考えてきました。

一方で、

DD (Dealing Desk)
NDD (No Dealing Desk)
STP (Straight Through Processing)
ECN (Electronic Communication Network)

という言葉は、注文執行や取引インフラなど別の文脈で使われます。

つまり、

そもそも完全に同じ軸の言葉ではありません。

ここを全部ひとまとめにして、

・ECNだからAブック
・NDDだから注文はすべて市場へ流れる

と理解すると、また話がおかしくなってきます。

例えば「ECN口座」と名付けられている口座について、

そのECNは具体的に何を意味しているのでしょうか?

・顧客注文はどこへ送られている?
・誰が取引相手になる?
・価格はどこから来ている?
・FX業者は取引の相手方になる?
・外部ヘッジはどのように行われる?

そして、

「NDDだからディーラーは一切関与していない」

という理解も、本当に正しいのでしょうか。

ここを掘り始めると、A/Bブックとは別にかなり長い話になります。

そのためこの記事では、これ以上深入りしません。

ただ、一つだけ覚えておいてください。

「Aブック・Bブック」と「DD・NDD・STP・ECN」は、同じものを別の言葉で呼んでいるわけではありません。

そして、

・ECNだから優良
・NDDだから透明
・STPだから注文はインターバンクへ直結

という説明についても、本当にそうなのか一つずつ確認する必要があります。

この話については別の記事で、

「DD・NDD・STP・ECNとは?FX業者の約定方式を整理する」

として徹底的に掘り下げる予定です。

ここまでで、A/Bブックを「市場へ流す/呑む」という二語だけで説明するのは難しいことが見えてきました。

では、この記事の出発点だった疑問へ戻ってみましょう。

あなたがドル円を1ロット買ったとき、その1ロットは結局どこへ行ったのでしょうか?

そして…

あなたの1ロットは、本当に「市場」に流れているのでしょうか?

最初の疑問に戻る – あなたの1ロットは結局どこへ行った?

あなたがFX業者で、USD/JPYを1ロット買った。

注文はすぐに約定した。

しかしチャートはピクリとも動かない。

そこで、こんな疑問を持ちました。

「自分の1ロットは、本当に市場へ流れているのだろうか?」

ここまでAブック・Bブックについて読んできた今なら、この質問が最初に思っていたほど単純ではないことが分かるはずです。

では、結局どうなのでしょうか。

あなたの1ロットは市場へ流れているのでしょうか。

答えは少し拍子抜けするかもしれません。

外部から見ているだけでは、単純には分かりません。

なぜなら、あなたがFX業者へ出した「1ロットの買い注文」と、そのFX業者が外部で行う取引は、必ずしも同じものではないからです。

「1ロット買った=1ロットがそのまま市場へ飛んでいく」ではない

Aブックについて、

「顧客の注文を市場へ流す方式」

と説明されているのを見たことがあるかもしれません。

この説明から想像すると、

あなたがUSD/JPYを1ロット買う

FX業者がその注文を受け取る

FX業者が1ロットの注文をそのまま「市場」へ送る

インターバンク市場のどこかで1ロットが約定する

というイメージになります。

まるで荷物の配送です。

あなたがFX業者へ渡した「1ロット」という荷物が、そのまま次の場所へ転送されていく。

しかし、ここまで見てきた仕組みを考えると、必ずしもそうではありません。

あなたがFX業者で1ロット買ったということと、FX業者が外部の取引相手と1ロットの取引をすることは分けて考える必要があります。

FX業者には、あなた以外にも多くの顧客がいます。

あなたが1ロット買った同じ瞬間に、別の顧客が0.5ロット売っているかもしれません。

さらに別の顧客が0.3ロット売っているかもしれません。

そうであれば、業者全体の取引フローをネットで見たとき、あなたの1ロットすべてに相当するリスクがそのまま残るとは限りません。

ここまで説明してきた、

・Internalization(内部化)
・Netting(ネッティング)

が関係してきます。

そして、相殺した後に残ったリスクについて、

・そのまま内部で保有するのか?
・一部を外部へヘッジするのか?
・すべて外部へヘッジするのか?

それもFX業者のリスク管理によって変わり得ます。

つまり、あなたが1ロット注文したという事実だけから、FX業者も外部で1ロット取引したと判断することはできないのです。

同じFX業者でも、すべての注文が同じように処理されるとは限らない

さらに話を複雑にするのが、先ほど説明したA/Bハイブリッドです。

あるFX業者がAブックとBブックを組み合わせてリスクを管理しているとします。

すると、

・ある取引フローは内部化される
・別の取引フローは外部ヘッジされる
・一定のリスクまでは内部で保有する
・設定したリスク上限を超えた部分を外部へヘッジする

といったことが考えられます。

さらに、

・どの口座タイプを使っているのか?
・どの通貨ペアを取引しているのか?
・どれくらいの数量なのか?
・そのとき業者全体でどれだけポジションが偏っているのか?
・市場の流動性がどのような状態なのか?

などによっても、リスク管理は変わり得ます。

ですから、「このFX業者はAブックだから、私の注文は全部市場へ流れている」と単純に考えることもできません。

そもそも前の章で見たように、「Aブック業者」という呼び方自体が、実態をかなり単純化している可能性があります。

では、自分の注文がどう処理されたか確認できないのか?

ここで当然、次の疑問が出てきます。

「じゃあ、自分が出した1ロットが実際にどう処理されたのか確認する方法はないの?」

これは非常に面白い問題です。

FX業者がExecution PolicyやClient Agreementなどで注文執行方針を公開している場合、どのような仕組みで顧客注文を処理しているのかをある程度確認できることがあります。

FX業者によっては、取引の相手方、執行方法、価格提供の仕組みなどについて説明していることもあります。

しかし、

「あなたが○月○日○時○分○秒に出したUSD/JPY 1ロットの注文について、0.4ロットを内部化し、残り0.6ロットをこのLPでヘッジしました」

というレベルまで、一般の顧客が常に確認できるとは限りません。

ここには、公開されている注文執行方針実際の内部リスク管理という二つのレイヤーがあります。

この違いは非常に重要です。

・業者が公開している資料から確認できること
・仕組みとして行われ得ること
・そして、外部からは確認できないこと

これらを混同しないようにする必要があります。

だからこそ、

・○○社は100%Aブック
・○○口座ならすべての注文がインターバンクへ直結

といった説明を見かけたときには、「それは何を根拠に確認したのだろう?」と一度考えてみる価値があります。

そもそも「市場へ流れる」という言葉を見直してみる

そして、この記事で最も伝えたかったことの一つがここです。

最初は、「自分の1ロットは市場へ流れているのか?」と考えていました。

しかし、ここまで仕組みを追ってくると、そもそも「市場へ流れる」という言葉自体が、かなり多くのことを省略していると分かります。

FXには、世界中のすべての注文が集まる一つの巨大な取引所があるわけではありません。

そしてAブックでも、

あなたの注文そのものFX業者が外部で行うヘッジ取引を分けて考える必要があります。

だとすれば、

「自分の注文は市場へ流れたのか?」

という質問そのものを、少し変えた方がいいのかもしれません。

例えば、

「私の取引によってFX業者に生じた市場リスクは、どのように管理されたのか?」

あるいは、

「そのリスクのうち、どの程度が外部の取引相手へ移転されたのか?」

こう聞いた方が、A/Bブックの実態に近い問いになります。

最初は同じことを聞いているように見えるかもしれません。

しかし、「注文がどこへ飛んでいったか」から「リスクがどのように処理されたか」へ視点が変わっています。

これが、Aブック・Bブックを理解するうえで大きなポイントです。

では、チャートを動かしたのは誰なのか?

さて…

ここまで来たところで、最初の疑問をもう一つ思い出してみましょう。

私はもともと、

「自分がドル円を買っても、なぜチャートは動かないのだろう?」

というところから、この疑問を持ちました。

・1ロットでは小さすぎるから?
・10ロットなら? 100ロットなら?
・1,000ロットなら?

しかし、ここまで読んだ今なら、単純に、

「ロットを増やせば、いつか自分の注文がチャートを動かす」

と考えるだけでは足りないことが分かります。

そもそも自分の注文がどのように内部化され、どの程度外部ヘッジされるのかも分かりません。

さらにFXには世界共通の取引所がありません。

だとすると…

私たちが普段見ているドル円の価格は、いったい何によって動いているのでしょうか?

そして、本当に大きな注文を出せば、自分自身でドル円の価格を動かすことはできるのでしょうか?

1ロット?10ロット?100ロット?1,000ロット?
いったい、どこから「市場を動かす注文」になるのでしょう。

実はこの疑問に答えるには、Aブック・Bブックとはまた別の、

・Liquidity(流動性)
・Order Flow(注文フロー)
・Market Depth(市場の厚み)
・Market Impact(マーケットインパクト)

そして、

FXの価格がどのように形成されているのか?

という世界へ進む必要があります。

つまり、最初に持った、「何ロット入れたらチャートは動くんだろう?」という素朴な疑問。

その答えを探そうとすると、今度はFX市場そのものの仕組みを知る必要が出てくるのです。

では何ロットならチャートを動かせる?100Lot、1,000Lotなら?

ここまで来ると、最初に抱いたもう一つの疑問が、ますます気になってきます。

結局、何ロット入れたらチャートを動かせるの?

1ロットでは何も起きなかった… では10ロットなら? 100ロットなら?
1,000ロットなら…?

どこかに、

「この数量を超えれば、自分の注文でドル円を動かせる」

という境界線がありそうにも思えます。

しかし実は、この質問には、

「○○ロットです」

と単純に答えることができません。

なぜなら、価格が動くかどうかは注文数量だけでは決まらないからです。

100ロットならドル円は動くのか?

例えば、100ロットのUSD/JPYを買ったとします。

一般的なFXの1ロットを10万通貨として考えれば、1,000万ドル相当です。

個人トレーダーからすれば、かなり大きな注文です。

「さすがにこれだけ買えば、ドル円も少しくらい上がるのでは?」

と思いたくなります。

しかし、ここで重要なのが、

その100ロットを、誰が、どこで、どのように処理するのか

です。

前章まで見てきたように、あなたがFX業者へ100ロットの買い注文を出したからといって、その100ロットがそのまま一つの注文として外部へ送られるとは限りません。

・他の顧客フローと相殺されるかもしれません
・一部だけ外部ヘッジされるかもしれません
・複数の取引先へ分散してヘッジされるかもしれません
・あるいは業者側が一定範囲のリスクを内部で保有するかもしれません

つまり、

「自分が100ロット注文した」

という事実だけでは、その注文が外部のFX市場へどの程度の影響を与えたのか判断できないのです。

そして仮に、100ロット相当の買い需要が外部へ出たとしても、それだけで必ず価格が動くとも限りません。

ここから先は、Aブック・Bブックとは別の問題になってきます。

同じ100ロットでも「市場の厚み」で意味が変わる

少しイメージしてみましょう。

ある価格帯に、100ロット売りたい参加者が十分に存在しているところへ、100ロットの買い注文が入ったとします。

買いたい人と売りたい人が、その価格付近で十分にマッチできるのであれば、大きく価格を変化させなくても取引できるかもしれません。

ところが、

その価格では10ロットしかない。 次の価格に20ロット。
さらに次の価格に30ロット。

という状態だったらどうでしょう。

100ロットすべてを買うためには、より高い価格に存在する流動性まで取りにいく必要が出てきます。

すると、取引の成立とともに価格水準が変化していきます。

ここで重要なのは、

注文数量そのものではなく、その注文を現在の価格付近で吸収できるだけの流動性が存在するか?

ということです。

これが、Liquidity(流動性)という考え方につながります。

そして、各価格帯にどれくらい取引可能な数量が存在しているのかという、Market Depth(市場の厚み)も関係してきます。

つまり同じ100ロットでも、流動性が非常に厚い市場で出す100ロットと、流動性が薄い市場で出す100ロットでは、価格への影響がまったく違う可能性があります。

「何ロット?」より「その注文を市場が吸収できるか?」

ここまで来ると、

「何ロット入れればチャートが動く?」

という最初の質問を、また少し言い換えることができます。

重要なのは、注文数量だけではありません。

その瞬間、

・どれだけの流動性があるのか
・どの価格帯に、どれだけの取引可能な数量があるのか
・買いと売りのフローがどちらへ偏っているのか
・どのような方法で注文が執行されるのか

こうした条件によって、同じ数量の注文でも価格への影響は変わります。

ここで登場するのが、Market Impact(マーケットインパクト)です。

簡単に言えば、

自分の取引によって市場価格にどれくらいの影響を与えるのかという考え方です。

個人トレーダーの感覚では、「表示されている価格で買う」と考えます。

しかし注文サイズが大きくなっていくと、「その価格で全部買えるのか?」という問題が出てきます。

さらに大きくなると、「自分自身が買うことによって、買える価格そのものを押し上げてしまわないか?」という問題になります。

ここまで来ると、普段私たちが見ている「価格」の見え方も少し変わってきます。

では、1,000ロットなら動く?

それなら1,000ロットならどうでしょう。

一般的な1ロット=10万通貨として考えれば、

1,000ロット=1億通貨

です。

USD/JPYなら1億ドル相当。

さすがにこれなら動くのでは?

……と言いたくなります。

しかし、それでも、

「1,000ロットなら必ず○pips動く」

とは言えません。

・いつ取引するのか?
・どのような市場環境なのか?
・どこで執行されるのか?
・一括なのか、分割なのか?
・その瞬間の流動性はどの程度なのか?
・注文フローはどちらに偏っているのか?
・どの価格帯にどれだけの流動性が存在しているのか?

これらによって結果は変わります。

さらにFXには、この記事の前半で説明した通り、世界中の注文が一つに集まる巨大な取引所がありません。

ここが、話をさらに面白くします。

「ドル円の流動性」と言ったとき、その流動性はいったいどこにあるのでしょうか?

・銀行?
・LP?
・ECN?
・FX業者?
・インターバンク市場?

そして、私たちがMT4やMT5で見ているドル円チャートは、誰が作った価格なのでしょうか?

この疑問まで入ってくると、

「100ロットなら動く?1,000ロットなら動く?」

という問いが、実はFX市場のかなり深い部分につながっていることが分かります。

「何ロットなら動く?」には、単純な答えがない

最初に抱いた疑問は、とても単純でした。

「自分の注文でチャートを動かすには、何ロット必要なんだろう?」

しかし、その答えを本気で考えようとすると、

・Liquidity(流動性)
・Order Flow(注文フロー)
・Market Depth(市場の厚み)
・Market Impact(価格への影響)

そして、FXの価格形成まで理解する必要があります。

だから、「ドル円なら○○ロット入れればチャートが動く」という単純な答えはありません。

むしろ重要なのは、

「何ロットか?」ではなく、「その注文に対して、その瞬間どれだけの流動性が存在するのか?」

という視点です。

そして、ここから先はAブック・Bブックの話を超えて、

「そもそもFXの価格はどうやって作られているのか?」

という世界へ入っていきます。

この記事の最初に出てきた、

「自分が買ってもチャートがピクリとも動かない」

という何気ない疑問。

実はこれを突き詰めるだけで、FX市場のかなり奥深いところまでたどり着くことになります。

この続きは、

「何ロット入れたらドル円は動く?FXの流動性とMarket Impact」

で、実際に数字を使いながらもう少し深く掘ってみたいと思います。

100ロット?1,000ロット?1万ロット?

注文サイズを大きくしていったとき、一体どこから「自分が市場を動かす側」になるのか。

そして…

そもそも私たちが見ている「ドル円の価格」は、誰が作っているのでしょうか?

A/Bブックを知った後、本当に見るべきFX業者の7項目

A/Bブックの仕組みが分かったところで、次に必要なのは「AかBかを当てること」ではありません。

では、実際にFX業者を選ぶとき、何を見ればいいのでしょうか。

ここから少し、実際の業者選びという視点で考えてみます。

「Aブックですか?」だけでは業者の実態は分からない

FX業者について調べると、

・完全Aブック
・NDD方式
・ECN口座
・インターバンク直結
・透明性の高い約定環境

といった言葉を目にすることがあります。

どれも魅力的に聞こえます。

しかし、この記事をここまで読んできた人なら、少し違った見方ができるはずです。

例えば、「完全Aブックです」と書いてあったとしましょう。

そこで終わらず、「それは具体的にどういう意味なのだろう?」と考えてみる。

・顧客取引は誰との取引になるのか?
・外部ヘッジはどのように行われるのか?
・どのような注文執行方針なのか?
・価格はどこから提供されるのか?
・スリッページはどう扱われるのか?
・利益相反についてどのような説明があるのか?

つまり、ラベルを見るのではなく、その中身を見るということです。

そのために確認したい資料の一つが、FX業者が公開している公式文書です。

まず確認したいのは「どこの会社なのか」

意外と見落とされやすいのですが、最初に確認したいのは非常に基本的なことです。

「自分は、どの会社と契約するのか?」

海外FX業者の場合、一つのブランド名の下に複数の法人が存在していることがあります。

例えば、

A国の法人
B国の法人
C国の法人

が同じブランド名でサービスを提供している、といったケースです。

ここで重要なのは、

「そのブランドがどこかで金融ライセンスを持っている」

というだけではありません。

自分の口座を実際に管理する契約主体はどの法人なのか。

ここを確認する必要があります。

同じブランドでも、契約する法人によって適用される規制や顧客保護の仕組み、利用規約などが異なる可能性があるからです。

まずは公式サイトの会社概要やLegal Documentsなどから、

・運営法人
・登記国・地域
・契約主体

を確認する。

FX業者を調べるなら、ここがスタート地点です。

その法人は、どのような規制を受けているのか

次に確認したいのが金融規制です。

FX業者が、「○○ライセンス取得」と書いているだけで安心するのではなく、

どの法人が、どの規制当局から、どのような認可を受けているのかまで確認します。

そして可能であれば、FX業者の公式サイトだけではなく、規制当局側の登録情報も確認したいところです。

ここでも、「Aブックだから安全」という話とは別の評価軸が出てきます。

注文処理がAブックだったとしても、運営会社そのものの信用や顧客保護まで自動的に保証されるわけではありません。

反対に、Bブックを採用しているという理由だけで、その業者が規制を受けていないことにもなりません。

注文処理モデルと金融規制は分けて評価する。

ここは重要です。

Execution Policyには何と書いてある?

A/Bブックについて調べるなら、ぜひ確認しておきたいのがExecution Policy(注文執行方針)です。

名称は業者によって異なりますが、

・Order Execution Policy
・Execution Policy
・Best Execution Policy

などの文書が公開されている場合があります。

ここには、その業者が顧客注文をどのような考え方で執行するのかについて書かれていることがあります。

例えば、

・顧客との取引で誰が相手方になるのか?
・どのような執行場所を利用するのか?
・価格をどのように取得するのか?
・注文執行において何を重視するのか?
・市場急変時にどのような処理が行われる可能性があるのか?

といった情報です。

ここで重要なのは、

「Aブック」「ECN」「NDD」という宣伝文句より、公式文書に何と書かれているのかを見ることです。

トップページには、「最高水準の透明性」と書かれている。

しかしExecution Policyを読むと、取引の相手方についてかなり具体的な説明がある。

あるいは逆に、ほとんど情報が見つからない。

こうした違いも、FX業者を見る材料になります。

Client Agreementは面倒でも一度は読んでおきたい

もう一つ重要なのが、Client Agreement(顧客契約・利用規約)です。

正直なところ、非常に長いです。

しかも英語。

読んでいて面白いものでもありません。

しかし、FX業者について本気で調べようとすると、ここにかなり重要な情報が書かれていることがあります。

例えば、

・どの法人と契約するのか
・顧客と業者の法的な関係
・注文を拒否・取消できる条件
・価格エラー時の処理
・異常取引と判断される条件
・取引制限
・口座停止
・出金
・紛争が発生した場合の取り扱い

などです。

特に海外FXでは、

・利益を出したら出金拒否された!
・取引を無効にされた!

といった話を見かけることがあります。

もちろん、ネット上の口コミだけでは何が起きたのか判断できないケースもあります。

だからこそ、その業者の規約では何が許可され、何が禁止されているのか?を確認することが重要になります。

約定方式について「どこまで開示しているか」

そして、この記事のテーマに最も近いのが約定方式に関する開示です。

例えば、

・NDDなのか? STPなのか? ECNなのか?
・FX業者自身が取引の相手方になるのか?
・外部のLiquidity Providerを利用するのか?
・複数の価格提供元を利用しているのか?
・顧客注文を内部化する可能性について説明しているのか?

こうした情報を確認します。

ただし、ここで注意したいのは、書いてある用語だけで判断しないこと。

・「ECN」と書いてあるからAブック
・「NDD」と書いてあるから市場直結
・「STP」と書いてあるから透明

と結論づけるのではなく、

その業者がその言葉をどのような意味で使っているのかまで見る必要があります。

場合によっては、マーケティングページよりもLegal Documentsの方が、その業者の実態を理解する手掛かりになることがあります。

顧客資金はどのように管理されている?

注文処理とは別に、必ず確認したいのが顧客資金の管理方法です。

例えば、

・顧客資金を会社の運営資金と分けて管理しているのか?
・どのような形で保管されているのか?
・破綻時の扱いはどうなるのか?
・投資家補償制度の対象になるのか?

ここでも重要なのは、「分別管理」と書いてあるから絶対安全と短絡的に考えないことです。

・どの法人に適用されるのか?
・どのような法的枠組みなのか?
・補償制度があるなら誰が対象なのか?

具体的に確認していく必要があります。

A/Bブックについて何千文字調べても、預けた資金そのものの管理を確認しなければ、業者選びとしては片手落ちです。

最後に取引条件を見る

もちろん、実際にトレードする以上、取引条件も重要です。

・スプレッド
・取引手数料
・スワップ
・最大レバレッジ
・ロスカット水準
・最小・最大ロット
・スリッページ
・約定速度
・取扱商品
・EAやスキャルピングへの制限
・ストップレベル
・そして口座タイプごとの違い

ただし、ここでも単純に、「スプレッドが狭い業者=優秀」とは考えません。

例えばRaw口座で非常に狭いスプレッドが表示されていても、別途取引手数料が発生する場合があります。

実際に比較するなら、「スプレッド+取引手数料+スワップ+約定品質」まで含めて考える必要があります。

そして短期売買なら約定品質の重要度が高くなる。

長期保有ならスワップの影響が大きくなる。

EAなら取引制限や執行環境が重要になる。

つまり、「良いFX業者」はトレードスタイルによっても変わるということです。

当サイトでは「AかBか」だけでFX業者を評価しない

ここまでが、この記事から導き出せる一つの結論です。

このサイトでは今後、海外FX業者についても取り上げていく予定です。

その際、「Aブックだから優良」 「Bブックだから悪質」という理由だけでFX業者を評価することはしません。

見るのは、

・誰が運営しているのか?
・どの規制を受けているのか?
・顧客資金をどう管理しているのか?
・顧客との取引関係をどう説明しているのか?
・注文執行方針に何と書かれているのか?
・利用規約にはどのような条件があるのか?
・そして実際の取引条件はどうなのか?

です。

そしてもう一つ。

分からないことを、分かったことにしない。

特定のFX業者が内部でどの顧客をAブックにし、どの注文をBブックとして処理し、どのタイミングでどのLPへどれだけヘッジしているのか。

その情報が公開されていないのであれば、「確認できない」とする。

・完全Aブックらしい
・勝ち組だけAへ飛ばしているらしい
・ECNだからインターバンク直結らしい

といった情報を、そのまま事実として扱わない。

これは、このサイトでFX業者を調査していくうえでの基本方針にしたいと思います。

A/Bブックは、FX業者を見るための非常に面白い入口です。

しかし、AかBかを知ることがゴールではありません。

その仕組みを理解したうえで、「では、この業者は実際にどんな会社なのか?」を見る。

そこからが、本当のFX業者選びです。

今後は、

「A/Bブック・約定方式から選ぶ海外FX業者」

として、各社が公開しているExecution PolicyやClient Agreement、運営法人、金融ライセンス、資金管理、約定方式などを実際に確認しながら比較していきます。

単なる、「おすすめ海外FX業者ランキング」ではなく、「その業者を、なぜ選ぶのか」まで説明できる比較を目指します。

まとめ – AかBかより「自分の注文の裏側」を知る

この記事の出発点は、「自分がドル円を買っても、なぜチャートは動かないのか?」という小さな疑問でした。

その疑問を追いかけるうちに、Aブック・Bブックの話へたどり着きました。

そして、そこからさらに、

A/Bブック

Internalization(内部化)

Netting(ネッティング)

Hedging(外部ヘッジ・カバー取引)

LP(Liquidity Provider)

インターバンク

Liquidity(流動性)

価格形成

へと、話がつながっていきました。

最初は、

「Aブックは市場に流す」
「Bブックは業者が呑む」

という単純な違いに見えていたかもしれません。

しかし、実際にはもう少し複雑です。

Aブックだから、自分の1ロットがそのまま1ロットの注文として巨大な「市場」へ飛んでいくとは限りません。

Bブックだから、顧客一人ひとりの損失がそのままFX業者の利益になるとも限りません。

顧客の売買を内部で相殺し、残ったリスクを必要に応じて外部へヘッジする。

AとBを組み合わせてリスクを管理する。

そうした仕組みまで見ていくと、「この業者はAかBか?」という問いだけでは、FX業者の実態を十分に理解できないことが分かります。

そしてもう一つ重要なのは、

Aブック = 優良
Bブック = 悪質

という単純な見方から離れることです。

本当に見るべきなのは、

・どの法人が運営しているのか?
・どのような規制を受けているのか?
・注文執行方針に何と書かれているのか?
・顧客資金はどのように管理されているのか?
・どのような条件で注文が約定するのか?
・そして、公開されていない部分については、どこまで確認できるのか?

です。

A/Bブックは、FX業者を評価するための「答え」ではありません。

むしろ、

FX業者の裏側を見るための入口

だと考えた方がいいでしょう。

そして、この記事を書き始めるきっかけになった疑問へもう一度戻ります。

自分が注文しても、なぜチャートは動かないのか?

ここまで読んできた今なら、この質問にも少し違った見方ができるはずです。

重要なのは、「自分が何ロット注文したか」だけではない。

・その注文がどのように処理されたのか?
・どれだけ内部化されたのか?
・どれだけ外部ヘッジされたのか?
・その瞬間にどれだけの流動性があったのか?
・そして、その注文がどの価格帯まで流動性を取りにいったのか?

こうした要素が重なって、初めて価格への影響を考えることができます。

つまり、「自分の注文は市場に流れているのか?」という疑問を本気で掘り下げると、

最終的には、「そもそもFXの価格はどうやって作られているのか?」というところまで行き着きます。

ここから先は、Aブック・Bブックとはまた別の世界です。

・何ロット入れればドル円は動くのか?
・流動性が厚い・薄いとは具体的にどういう状態なのか?
・大口注文はなぜ価格を動かすのか?
・そして、私たちが普段見ているドル円のチャートは、誰が作った価格なのか?

一つの疑問を掘ると、また次の疑問が出てきます。

FXは、こういうところが面白いのかもしれません。

では結局…

FXの価格は、誰が動かしているのでしょうか?

次回|FX市場の裏側・第02話

ここまで、あなたが出した「1Lot」を起点に、FX業者の内部で何が起きているのかを追ってきました。

・Aブック
・Bブック
・内部化
・ネッティング
・カバー取引

ここまで見てくると、一つのことが分かります。

あなたが出した1Lotが、そのまま1Lotの注文として外部へ発注されるとは限りません。

FX業者は顧客注文をそのまま右から左へ流しているだけではなく、複数の注文や自社が抱えるリスクを見ながら、必要に応じて外部でカバーします。

では…

その「外部」とは、一体どこなのでしょうか?

FX業者がリスクを外へ流すとき、その相手は誰なのか…

銀行? LP? ECN?
それとも、よく耳にする「インターバンク市場」なのでしょうか?

さらに、その途中にはPrime BrokerやAggregatorと呼ばれる存在まで登場します。

私たちが普段見ている注文画面の向こうには、まだ続きがあります。

第01話ではFX業者の内部まで追いました。

次は、そこから外へ出てみましょう。

【FX市場の裏側|第02話】

あなたの1Lotから始まった旅は、ここからFX業者の外側へ進みます…

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