【FX市場の裏側|第02話】あなたの注文はどこへ行く?カバー取引・LP・Prime Broker・インターバンクまで追跡!

FX市場の裏側|第02話

1Lotから始まった旅は、FX業者の外へ…

このシリーズでは、あなたが普段何気なく押している「注文」から出発し、FX業者、LP、インターバンク、価格形成、Order Flow、約定の裏側まで、全10話で市場の奥を追っていきます。

第01話で分かったのは、「Aブックだから、あなたの1Lotがそのまま1Lotとして市場へ発注される」とは限らないということでした。

内部化、ネッティング、カバー取引…

では、FX業者が外部へ流したリスクは、その先で誰が受け取っているのでしょうか?

第02話では、FX業者の外へ出ます。

LP、Aggregator、Prime Broker、そしてインターバンクへ。

あなたの注文の「その先」を追跡してみましょう。

初めてこのシリーズを読む方へ

第01話「あなたの1Lotはどこへ行く?」から読むと、注文ボタンを押したところから順番に市場の奥へ進めます。

目次

FX業者の「その先」には何がある?

前の記事では、「自分が出した1Lotの注文は、本当に市場へ流れているのか?」という疑問から、Aブック・Bブック、内部化、ネッティング、ヘッジというFX業者側の注文処理とリスク管理を追いかけました。

そこで見えてきたのは、少し意外な事実です。

私たちがFX業者でUSD/JPYを1Lot買ったからといって、その1Lotがそのまま「1Lotの注文」として、巨大な市場へ一直線に飛んでいくとは限りません。

顧客同士の売買が内部で相殺されることもあれば。

FX業者が一定のリスクを内部で抱えることもある。

そして、必要になった部分だけを外部でヘッジすることもある。

では、その外部とはどこなのでしょうか。

FX業者の公式サイトを見ていると、

・複数のLPから流動性を供給
・Tier1 Liquidity Providerと接続
・インターバンク市場のレートを提供
・Prime Brokerを通じて高品質な流動性へアクセス

といった言葉を目にすることがあります。

いかにも「市場の奥深くまで直接つながっている」ように聞こえます。

しかし、LPとは誰なのでしょう。

Prime Brokerは何をしているのでしょう。

そもそも「インターバンク市場」とは、東京証券取引所のように世界のFX注文が集まる巨大な場所なのでしょうか。

そして何より、

あなたが出した1Lotは、その中のどこまで届いているのでしょうか。

今回は、FX業者の画面の向こう側へ進みます。

トレーダーからFX業者へ…
FX業者からLPへ…
さらにPrime Brokerや銀行、電子的な取引ネットワークへ…

最終的には、私たちが何気なく使っている「インターバンク」という言葉のところまで、注文とリスクの行き先を追跡してみます。

ただし、最初に一つだけ注意があります。

この記事で追いかけるルートは、

トレーダー → FX業者 → LP → Prime Broker → インターバンク

という一本のベルトコンベアではありません。

実際のFX市場はもっと複雑です。

業者によって接続先は違います。

取引の仕組みも違います。

同じ業者でも、注文や市場環境によって処理が変わる可能性があります。

だからこそ面白い。

では、あなたの注文の「その先」を追ってみましょう。

「あなたの注文が市場へ流れる」とはどういう意味?

1Lotの注文そのものが旅をするとは限らない

最初に、前の記事で扱った重要なポイントだけ確認しておきます。

あなたがUSD/JPYを1Lot BUYしたとします。

この瞬間、

あなたの1Lot

FX業者

LP

銀行

インターバンク

という形で、あなたの注文そのものが名札を付けて旅を始める。

そう考えると分かりやすいのですが、実際のリスク管理を理解するには少し雑です。

FX業者が外部で処理するのは、必ずしも「あなたの注文そのもの」ではありません。

重要なのは、顧客との取引によってFX業者側に生じた市場リスクです。

例えば顧客AがUSD/JPYを1Lot BUYした一方で、顧客Bが0.7Lot
SELLしていたとします。

単純化すれば、業者全体として残る方向性のあるリスクは0.3Lot相当です。

この場合、Aさんの1Lotをそのまま外へ出す必要はありません。

内部で相殺した結果として残ったリスクだけを外部でヘッジすることもできます。

つまり、

「顧客注文の数量」と「外部ヘッジの数量」は一致するとは限らない。

ここを混同すると、この先に登場するLPやPrime Brokerの役割も分かりにくくなります。

この記事では便宜上「注文の行き先」と表現しますが、より正確には、

顧客注文を受けたFX業者が、その結果として生じたリスクをどこで、誰と、どのように処理するのか

を追跡していきます。

「注文を流す」と「カバーする」は同じなのか?

日本のFX界隈では、

・注文を市場へ流す
・カバー先へ流す
・インターバンクへ流す

といった表現がよく使われます。

意味をつかむには便利ですが、これも少し注意が必要です。

顧客から受けた注文をそのまま別の相手へ転送するイメージと、FX業者自身が反対方向の取引を行って市場リスクを相殺することは、概念として同じではありません。

例えばあなたがUSD/JPYを買い、FX業者があなたの取引によってドル円下落側のリスクを負ったとします。

業者が外部の取引相手からUSD/JPYを買えば、顧客との取引で生じたリスクを外部取引で相殺できます。

これがカバー取引を理解する基本です。

「あなたの注文をどこかへ転送した」というより、

「あなたとの取引で生じた業者側のリスクを、別の取引でカバーした」

と考えた方が、実態に近いケースがあります。

では、そのカバー取引とは具体的に何なのでしょうか。

カバー取引とは?FX業者は何を「カバー」しているのか

顧客がUSD/JPYを買うと、FX業者には何が起きる?

具体例で考えます。

あなたがFX業者で、

USD/JPY 10Lot BUY

したとします。

1Lot=10万通貨とすれば、100万ドル相当です。

あなたから見ると、

「ドル円を10Lot買った」

というだけです。

しかし、相対取引として考えると、その取引には反対側が必要です。

単純化すれば、あなたが買い手なら、FX業者はあなたに対する売り手側になります。

その後USD/JPYが大きく上昇すれば、あなたには含み益が発生します。

反対にFX業者側から見れば、顧客との取引だけを切り取れば、その値動きに対する市場リスクを抱えることになります。

もちろん実際のFX業者には多数の顧客がいます。

他の顧客のSELLによって相殺されるかもしれません。

すでに保有しているポジションによってリスクが小さくなることもあります。

それでも最終的に業者が許容したくないエクスポージャーが残れば、そのリスクを外部取引によって抑える必要が出てきます。

そこで登場するのがカバー取引(Hedging)です。

なぜFX業者は反対売買をするのか?

カバー取引の目的を一言で表すなら、

相場の方向によってFX業者自身の損益が大きく振られる状態を小さくするため

です。

例えば顧客全体のポジションを集計した結果、

USD/JPYのBUYが100Lot、

SELLが70Lot、

だったとします。

単純化すれば、差し引き30Lot分の偏りが残ります。

この30Lot相当のリスクを業者がそのまま抱えても構いません。

しかし、相場が急変すれば損益も大きく変動します。

そこで外部の取引相手に対して、残ったリスクを相殺する方向の取引を行います。

これによって顧客が利益を出したときでも、外部取引側の利益によって業者の損失を相殺しやすくなります。

ここで重要なのは、

カバー取引は「顧客に勝たせないための取引」ではない

ということです。

本来の目的はリスク管理です。

顧客の注文によって生じるエクスポージャーを、業者が許容できる範囲に調整する。

そのために外部市場や取引相手を利用します。

全量カバーと部分カバー

では、顧客が100Lot買ったら、FX業者は100Lotを外部で買うのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

極端に単純化すると、考え方は大きく二つあります。

全量に近い形で外部ヘッジする。

あるいは、

内部で相殺・保有した後、必要な部分だけ外部ヘッジする。

例えば、

顧客BUY:100Lot
顧客SELL:80Lot

なら、ネットでは20Lot相当の偏りです。

この20Lotを全部カバーすることもあれば、一部だけカバーすることも考えられます。

業者のリスク許容度、市場の流動性、時間帯、ボラティリティ、顧客フローなどによって判断は変わり得ます。

つまり、外から見て、

「顧客が100Lot取引した」

という事実だけでは、

「FX業者が外部で何Lot取引したか」

までは分かりません。

ここで、第1記事で扱った

Internalization → Netting → Hedging

が、FX業者の外側の世界につながります。

では、そのHedgingを誰と行うのでしょうか。

FX業者は「誰」にカバー取引を出すのか?

ここでLPが登場する

海外FX業者の説明を読んでいると、頻繁に出てくる言葉があります。

LP(Liquidity Provider)

日本語では「流動性プロバイダー」「流動性提供者」などと訳されます。

しかし、

LP = 注文を受け取ってくれる会社

くらいの理解では、少し物足りません。

FX業者が顧客にUSD/JPYの価格を提示するためには、そもそも売買できる価格が必要です。

例えば、

Bid 150.100
Ask 150.102

というレート。

そして、その価格でどれだけの数量を実際に取引できるのかという流動性も必要です。

LPは、こうした取引可能な価格と流動性の供給源になります。

FX業者はLPなどから価格を受け取り、それを自社の顧客向け価格形成や外部ヘッジに利用することがあります。

LPは何を「提供」しているのか?

「Liquidity Provider」という名前からすると、単純に大量の資金を提供しているように聞こえます。

しかし、トレーダー目線では、

・売れる価格
・買える価格
・その価格で取引可能な数量

を提示する存在と考えると分かりやすいでしょう。

例えばあるLPがUSD/JPYレート、

Bid 150.100
Ask 150.102

を提示している。

別のLPは、

Bid 150.101
Ask 150.103

を提示している。

この時点ですでに、同じUSD/JPYでも提示価格は完全には同じではありません。

さらに、

150.102なら100万ドルまで。
150.103なら300万ドルまで。

といったように、価格帯によって約定可能数量も異なり得ます。

つまりLPは単なる「価格表」ではありません。

価格と流動性の組み合わせを提示する存在です。

ここが後にスプレッド、スリッページ、Market Depthを理解するうえで重要になります。

LP=銀行とは限らない

「インターバンク」「Liquidity Provider」と聞くと、大手銀行を想像する人が多いでしょう。

確かに大手銀行はFX市場における重要な流動性供給者です。

しかし、LPという言葉は必ずしも銀行だけを意味しません。

市場には銀行系の流動性供給者だけでなく、電子取引を中心に流動性を提供するノンバンク系のマーケットメーカーなども存在します。

さらにリテールFX業者から見れば、直接銀行と取引するのではなく、別の金融事業者を通じて複数の流動性へアクセスする構造もあります。

そのため、「LPがあります」という説明だけでは、実際の取引構造はほとんど分かりません。

重要なのは、

・誰が流動性を提供しているのか?
・どのような関係で接続しているのか?
・どの価格を、どのように顧客へ提示しているのか?

という部分です。

FX業者はLPを1社だけ使うのか?

これも業者によります。

1つの流動性源だけに依存するより、複数のLPや取引先から価格を受け取れる方が、より多くの流動性へアクセスできる可能性があります。

例えば、

LP-A
Bid 150.100 / Ask 150.103

LP-B
Bid 150.101 / Ask 150.102

LP-C
Bid 150.099 / Ask 150.101

という価格が来ていたとします。

買いたい側から見れば、Askが低い方が有利です。
売りたい側から見れば、Bidが高い方が有利です。

では、複数のLPからバラバラの価格が届いたとき、FX業者は何を顧客へ見せるのでしょうか。

ここから、もう一段奥へ進みます。

複数のLPから来る価格は、どうやって一つになる?

同じUSD/JPYなのに価格が違う

私たちはMT4やMT5を開くと、

USD/JPY 150.123

のように、一つの価格を見ています。

しかし、その裏側では複数の流動性源が、それぞれ異なるBid /
Askを提示している可能性があります。

これはFXが一つの中央取引所だけで価格形成される市場ではないことと関係します。

例えば、

LP-A:150.100 / 150.103
LP-B:150.101 / 150.104
LP-C:150.099 / 150.102

だったとします。

この中で最も高いBidは150.101。
最も低いAskは150.102。

単純化すれば、

Best Bid:150.101
Best Ask:150.102

という組み合わせを作ることができます。

しかもBidとAskは同じLPから来ているとは限りません。

売り側の最良価格はLP-B。
買い側の最良価格はLP-C。

ということもあり得ます。

ここで、私たちが画面で見ている「一つのレート」の裏に、複数の価格源が存在する可能性が見えてきます。

Liquidity Aggregatorとは?

複数の流動性源から届く価格や数量を集約し、取引可能な流動性を整理する仕組みを一般にLiquidity Aggregationと呼びます。

そのために利用されるシステムがLiquidity Aggregatorです。

イメージとしては、

LP-A
LP-B
LP-C
LP-D

から大量の価格情報が流れ込み、

Aggregator

利用可能な価格・数量を整理

FX業者の価格配信や注文執行へ利用

という構造です。

もちろん実際のシステムはこれほど単純ではありません。

単純な最良価格だけでなく、接続先ごとの信用条件、レイテンシー、約定品質、拒否率、流動性の特性など、さまざまな要素が執行に関係し得ます。

しかし読者としてまず理解したいのは、

FX業者が見ている価格は、一つの銀行から送られてきた「世界共通の正解レート」とは限らない

ということです。

Best Bid / Best Askは「世界で一つ」ではない

ここは非常に重要です。

株式市場の板を見慣れていると、「最良気配は市場全体で一つ」という感覚を持ちやすいかもしれません。

しかしOTCのFX市場では、誰がどの流動性源へアクセスできるかによって、見えている価格や数量が違う可能性があります。

あるFX業者には見えている価格が、別のFX業者には見えていない。

あるLPでは十分な数量があるが、別のLPでは薄い。

同じUSD/JPYでも、接続している流動性プールが違えば、完全に同じ取引環境になるとは限りません。

ここまで来ると、新しい疑問が出てきます。

では、FX業者はどうやって大手銀行や巨大な流動性ネットワークへアクセスしているのでしょうか?

そこで登場するのがPrime Brokerです。

LPのさらに向こう側 – Prime Brokerとは何者なのか?

なぜFX業者と銀行が直接取引すれば終わりではないのか

ここまでの説明だけなら、

FX業者

大手銀行

で十分に思えます。

なぜ、Prime Brokerという存在が必要なのでしょうか。

その理由を理解するには、FX取引が単に「価格を見て売買ボタンを押すだけ」ではないことを考える必要があります。

金融機関同士が大きな取引を継続的に行うには、

・信用関係
・取引限度
・証拠金
・決済
・取引後の処理
・相手方リスク

などを管理する必要があります。

誰でも世界的な大手銀行に接続して、好きなだけ取引できるわけではありません。

取引相手として認められるには信用力も必要です。

そこで、複数の取引先へのアクセスと信用関係を支える重要な仕組みとしてPrime Brokerageが登場します。

Prime Brokerは単なる「仲介業者」ではない

Prime Brokerを日本語で単純に「仲介業者」と説明すると、本質がかなり抜け落ちます。

Prime Brokerageの重要な役割の一つは、信用仲介です。

例えばある金融機関が複数の銀行や流動性供給者と取引したいとします。

それぞれと個別に信用関係や決済体制を構築するのは簡単ではありません。

Prime Brokerとの関係を利用することで、一定の枠組みの中で複数の取引先へアクセスし、取引をまとめて管理できるようになります。

つまりPrime Brokerは、

・取引アクセス
・信用
・決済
・ポジションや取引の集約管理

などを支える存在として機能します。

トレーダーの画面からはまったく見えません。

しかし、FX市場の「奥側」を理解するうえでは非常に重要です。

Give-upという考え方

Prime Brokerageを理解するときに興味深いのが、取引を実行する相手と、最終的な信用・決済関係を担う相手が必ずしも同じではないという点です。

市場参加者がある取引先と価格を合意して取引を実行し、その取引をPrime Brokerの枠組みに移して管理するような構造があります。

ここでは詳細な実務まで踏み込みませんが、

「価格を提示した相手」=「すべての信用・決済を最終的に担当する相手」ではない場合がある

ということだけ覚えておくと、インターバンク市場が単純な一対一取引の集合ではないことが見えてきます。

Prime of Prime(PoP)とは?

では、一般的なリテールFX業者が大手Prime Brokerと直接契約しているのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

大手Prime Brokerとの直接的な関係を持つには、信用力、資本、取引量、運用体制など高い条件が求められることがあります。

そこで登場するのが、Prime of Prime(PoP)と呼ばれる事業者です。

イメージとしては、

リテールFX業者

Prime of Prime

Prime Broker / 大手銀行・複数の流動性源

という階層です。

PoPが上流の流動性や信用枠へのアクセスを持ち、それをより小規模なブローカーなどへ提供します。

この構造を知ると、

「当社は世界トップクラスの銀行の流動性を利用しています!」

という宣伝文句を見る目も少し変わります。

・本当にその銀行と直接Prime Brokerage関係を持っているのか?
・PoPなどを経由しているのか?
・単にその銀行由来の価格が流動性プールの一部に含まれているという意味なのか?

同じ言葉でも、実際の接続関係にはかなり差があります。

「Tier1 LP」「大手銀行直結」という言葉をそのまま信じていい?

Tier1という言葉は便利だが、かなり曖昧

海外FX業者のマーケティングでは、

・Tier1 Liquidity
・Tier1 Bank
・Top-tier Liquidity Provider

といった表現がよく使われます。

響きは非常に強い。

Tier1と書かれているだけで、「世界最高クラスの銀行へ直接つながっている」ように感じます。

しかし、一般のトレーダーが見るべきなのは名称の格好良さではありません。

その表現が、どの法人との、どのような取引関係を意味しているのか。

ここです。

銀行名が書いてある。だから直接取引している!

とは限りません。

複数の階層を経由して、その銀行由来の流動性へアクセスしている可能性もあります。

LPの名前を公開していれば優良なのか?

これも単純ではありません。

LP名を公開していることは情報開示として参考になります。

しかし、

「有名銀行の名前が5社書いてある」

だけで約定品質まで保証されるわけではありません。

重要なのは実際に、

・どの流動性が利用可能なのか?
・どのような条件で取引されているのか?
・どの程度の数量があるのか?
・急変時にも同じように流動性が残るのか?
・そしてFX業者自身が顧客注文をどう処理しているのか?

LPのブランド名だけでは、そこまでは分かりません。

ここでも第1記事と同じ結論になります。

ラベル一つで判断しない。

Aブックという言葉だけで判断しないのと同じように、

・Tier1
・ECN
・Prime
・Interbank

という言葉だけでも判断しない。

何を意味しているのかを一段深く見る必要があります。

そしてたどり着く「インターバンク市場」…でも、それはどこにある?

ここまで、

FX業者

LP

Prime Broker / Prime of Prime

銀行やその他の流動性供給者

という世界を見てきました。

ようやく「インターバンク市場」に到着したように見えます。

では、インターバンク市場へ行ってみましょう。

……と言いたいところですが、ここで問題が起きます。

インターバンク市場は、どこにあるのでしょうか。

「インターバンク市場」という巨大な取引所は存在しない

東京証券取引所なら場所も運営主体も明確です。

NASDAQやNYSEも同じです。

では、「世界インターバンクFX取引所」のような巨大な取引所が存在して、世界中の銀行がそこへ注文を送っているのでしょうか。

そうではありません。

FXの中心的な市場はOTCです。

銀行、金融機関、マーケットメーカーなどが、さまざまな電子取引システムや相対取引関係を通じてつながっています。

つまり「インターバンク市場」という言葉から、

巨大な一つの取引所

世界中のFX注文が集約

一つの板

一つの価格

という構造を想像すると、実態から離れてしまいます。

「インターバンク」は場所よりネットワークに近い

インターバンク市場を理解するなら、

巨大な一つの市場というより、金融機関同士がつながる取引ネットワーク

と考える方がイメージしやすいでしょう。

・銀行Aと銀行B
・銀行Bと銀行C
・銀行とノンバンク系マーケットメーカー
・電子取引Venue
・Prime Brokerageを利用する市場参加者

それぞれが複雑につながっています。

その中で大量のFX取引が行われています。

ここまで来ると、第1記事で出てきた、「市場へ注文を流すの「市場」ってどこ?」という疑問の答えが少し見えてきます。

「市場」は一つの箱ではありません。

複数の参加者、流動性源、取引関係、電子的なVenueによって構成される巨大なネットワークです。

銀行同士だけが取引しているわけではない

「インターバンク」という名前からすると、銀行同士だけの市場に聞こえます。

歴史的にも銀行は中心的な役割を担ってきました。

しかし現代のFX市場を理解するうえでは、銀行以外の大規模な流動性供給者や電子取引の存在も無視できません。

そのため、

インターバンク = 銀行だけが参加する一つの閉じた市場

と考えるのも単純すぎます。

このあたりから、FX市場の構造は一気に面白くなります。

私たちがMT4で見ている一本のローソク足の裏側には、単一の取引所ではなく、複数の市場参加者が提示する価格と取引が存在している。

では、その複数の価格から、

私たちが見ている「USD/JPYの価格」はどうやって生まれるのでしょうか。

この疑問は、この記事の最後まで取っておきます。

実際に「あなたの1Lot」を追跡してみる

ここまで登場人物が増えてきました。

・FX業者
・LP
・Aggregator
・Prime Broker
・Prime of Prime
・銀行
・インターバンク

一度、最初の1Lotに戻って一本につないでみましょう。

ただし、これは理解のために単純化した一例です。

すべてのFX業者、すべての注文がこのルートを通るという意味ではありません。

STEP 1 あなたがUSD/JPYを1Lot BUY

あなたが取引画面でBUYを押します。

USD/JPY 1Lot。

この時点であなたが直接銀行と取引しているわけではありません。

まず取引関係があるのは、口座を開設しているFX業者です。

あなたの画面では一瞬で約定したように見えるかもしれません。

しかし業者側では、その取引を含めた顧客フロー全体のリスク管理が行われています。

STEP 2 内部化・ネッティング

同じ瞬間に別の顧客がUSD/JPYをSELLしているかもしれません。

業者は顧客全体のポジションや自社のリスクを見ながら、内部で相殺可能な部分を管理できます。

ここであなたの1Lotの大部分が、別の顧客フローと経済的に相殺されることも考えられます。

そうなれば、

あなたの1Lot=外部へ1Lot

ではありません。

STEP 3 残ったリスクをカバー

内部で処理した後も、業者が許容したくないエクスポージャーが残ったとします。

そこで外部ヘッジが必要になります。

例えばネットで0.4Lot相当のBUY方向のリスクが残った。

業者はそのリスクを相殺するため、外部の取引相手へヘッジ取引を行います。

この時点で初めて、FX業者の外側へ話が進みます。

STEP 4 LPなどの流動性へアクセス

業者が接続しているLPから複数の価格が提示されているとします。

どの価格で、どれだけの数量が取引可能か。

どの接続先が最も有利か。

どの流動性が実際に利用できるか。

システムはそれらを判断しながら注文をルーティングします。

ここでも、「あなたの1Lot」という名前が付いた注文がそのまま進んでいるとは限りません。

業者全体のリスク管理の結果として発生したヘッジ取引です。

STEP 5 さらに上流の信用・流動性ネットワークへ

LPやPoPなどの側にも、さらに上流の取引関係があります。

Prime Brokerとの信用関係を利用して複数の銀行・流動性源へアクセスしている場合もあります。

ある取引は銀行Aの価格で執行される、別の取引はノンバンク系LP、別の時間には銀行B。

市場環境によって利用可能な流動性も変化します。

ここまで来ると、「私の1Lotは銀行Aへ行った」と単純に追跡することが難しい理由が分かってきます。

STEP 6 広大なFX流動性ネットワークへ

最終的には、銀行や大規模な市場参加者が相互に取引する巨大なFX市場の流動性へつながっていきます。

しかし、そこには「ゴール」と書かれた一つの取引所があるわけではありません。

・複数の参加者
・複数の価格
・複数のVenue
・複数の信用関係

それらが組み合わさってFX市場を形成しています。

つまり、「あなたの1Lotはどこへ行った?」という問いに対する答えは…

1Lotがそのまま一本道を旅した、と考えること自体が正確ではない。

となります。

追うべきなのは注文票そのものではなく、

その取引によって生じたリスクが、どの段階で内部化され、どの段階で外部へ移転され、どの流動性へ接続されたのか。

こちらです。

では、なぜFX業者によって約定価格が違うのか?

ここまで市場構造を追ってきたところで、トレーダーに直接関係する話へ戻ります。

同じUSD/JPY
同じ時刻
同じBUY

それなのに、

業者Aでは150.100
業者Bでは150.102
業者Cでは150.105

微妙に違うことがあります。

なぜでしょうか?

接続しているLPが違う

まず単純な理由として、接続している流動性源が違います。

業者AがLP-A、LP-B、LP-Cから価格を受け取っている。

業者BはLP-D、LP-E。

なら、元になる価格セットが違います。

同じUSD/JPYでも、完全に同じBid / Askになるとは限りません。

Liquidity Poolが違う

LPの数だけでなく、実際にアクセスできる流動性の組み合わせも重要です。

これをLiquidity Poolと考えると分かりやすいでしょう。

ある業者では特定価格に厚い流動性がある。

別の業者では薄い。

小さな注文なら差が見えなくても、大口注文では約定結果に差が出る可能性があります。

Aggregationの方法が違う

複数のLPから価格を集めても、どう整理し、どの価格を採用し、どこへ注文をルーティングするかはシステム次第です。

単純なBest Bid / Best Askだけでなく、約定可能性や接続品質なども関係し得ます。

つまり、

同じLPを使っているから同じ結果になる

とも限りません。

FX業者側の価格提示方法も違う

さらにリテールFXでは、外部から受け取った価格がそのまま顧客画面へ一切加工されず表示されるとは限りません。

・口座タイプによってスプレッドの付け方が違う
・手数料体系が違う
・価格配信方法が違う
・内部のExecutionロジックも違う

そのため、

「インターバンクの価格は150.100だから、すべての業者も150.100でなければおかしい」

とは言えません。

そもそも「インターバンクの唯一の価格」という前提自体を見直す必要があります。

スリッページはどこで生まれる?

あなたが注文ボタンを押した瞬間に見えていた価格と、実際の約定価格がずれる。

これがスリッページです。

スリッページというと、「FX業者が意図的にずらした」と考える人もいます。

もちろん約定品質を評価することは重要です。

しかし市場構造としては、スリッページ自体は流動性と注文執行の過程でも発生し得ます。

・表示されていた価格の数量がすでに消化された
・市場が急速に動いた
・大きな注文が複数の価格帯を食った
・接続先までの間に価格が更新された

こうした要因でも約定価格は変化します。

つまり、

スリッページが発生した=不正

と即断するのも、

市場だから仕方ない=すべて正常

と決めつけるのも、どちらも雑です。

重要なのは、どのようなExecution Policyで、どの程度の頻度・方向・状況で発生しているのかを見ることです。

「LPが多いFX業者ほど優秀」は本当なのか?

ここまで読むと、「それならLPが多い業者を選べばいい」と思うかもしれません。

10社より20社。
20社より30社。

流動性源が多いほど良い。

一見すると合理的です。

しかし、これも単純ではありません。

LPの数だけでは約定品質は分からない

例えば、20社のLPへ接続していても、実際に有効な価格を継続的に提示しているのが一部だけなら、単純な社数に大きな意味はありません。

逆に接続先が少なくても、非常に深い流動性と安定した価格を受け取れている可能性もあります。

大切なのは数ではなく、

・価格
・Depth
・安定性
・約定率
・レイテンシー
・市場急変時の流動性

などを含めた総合的な品質です。

「LP20社」と書いてあっても、20社すべてへ毎回注文するわけではない

これも誤解しやすいところです。

複数LPがあるからといって、一つの注文を20社へ同時に発注するという意味ではありません。

その瞬間に利用可能な価格・数量を見て、特定の接続先へルーティングしたり、大きな注文なら複数の流動性源へ分割したりすることがあります。

つまり、

LP数=注文の行き先の数

でもありません。

重要なのは「どの流動性に、どう接続しているか」

業者を見るときに本当に知りたいのは、「LPはいくつ?」だけではありません。

・どのような流動性源へアクセスしているのか?
・直接なのか、PoPなどを経由しているのか?
・価格はどのように集約されるのか?
・注文はどのように執行されるのか?
・利益相反をどのように管理しているのか?

こうした部分です。

ただし、ここで問題があります。

一般のトレーダーが外部からすべて確認できるわけではありません。

外から確認できること、確認できないこと

第1記事でも大切にした考え方ですが、今回も同じです。

FX業者の内部システムを外部のトレーダーが完全に見ることはできません。

だからこそ、

確認できる事実
・構造上あり得ること
・外部からは確認できないこと

を分ける必要があります。

確認しやすい情報

業者の公式文書に、

・取引相手として誰が記載されているか?
・Execution Policyにどのような執行方針が書かれているか?
・顧客との取引において業者がPrincipalとなるのか?
・注文の外部執行についてどのような説明があるか?
・規制当局への登録や法人情報は?

こうしたものは比較的確認しやすい情報です。

公開されていても読み方に注意が必要な情報

・複数LP
・Tier1
・ECN
・インターバンク直結
・機関投資家レベルの流動性

こうしたマーケティング表現です。

完全に間違いという意味ではありません。

ただし、その一言だけでは実際のExecution構造まで分かりません。

何をもって「直結」と呼んでいるのか?
どの法人がどの取引先と契約しているのか?
価格配信だけなのか、実際のヘッジ先でもあるのか?

そこまで見て初めて意味が出てきます。

外部からは分からない部分

特定の顧客の特定の注文が、

・どの瞬間に…
・どのLPへ…
・何Lot…
・どのリスク管理ロジックによって…
・どの価格でヘッジされたのか?

これは通常、外部の一般顧客からは分かりません。

そのため、「自分の注文は必ず○○銀行へ流れている」と断定するのも難しい。

逆に、「絶対に外へ流れていない」と断定するのも難しい。

このサイトでは、確認できないものを想像で埋めるのではなく、

どこまで確認でき、どこから先がブラックボックスなのか?

を分けて考えます。

海外FX業者の「LP」「Prime」「インターバンク直結」をどう読む?

「インターバンク直結」は魅力的な言葉

海外FX業者の広告では、「インターバンク直結」という表現に強い説得力があります。

・中間業者なし
・市場へ直接
・透明

そんなイメージを持ちやすいからです。

しかし、この記事をここまで読んだ人なら、一つ疑問が浮かぶはずです。

何をもって「直結」なのでしょうか。

インターバンク市場は一つの取引所ではありません。

LP、PoP、Prime Broker、銀行、電子取引Venueなど、複数の階層や接続関係があります。

だから「直結」という言葉だけを見ても、具体的な取引構造は分かりません。

「Tier1 LP採用」も同じ

・Tier1という言葉があれば安心?
・大手銀行のロゴがあれば安心?

これも危険です。

もちろん信頼できる大手金融機関との関係は重要な情報になり得ます。

しかし、それだけで、

・顧客資金の安全性
・出金
・約定品質
・注文処理
・規制
・利益相反

まで保証されるわけではありません。

Aブックだから優良とは限らなかったのと同じです。

Execution Policyを読む意味がここで出てくる

第1記事で「Execution Policyを確認する」と書きました。

今回の記事まで来ると、なぜ見る必要があるのかが具体的になります。

Execution Policyには、

・どこで注文を執行するのか?
・どの要素を重視してBest Executionを目指すのか?
・価格、コスト、速度、約定可能性などをどう扱うのか?
・どのようなExecution Venueや取引先を利用する可能性があるのか?

といった情報が書かれている場合があります。

マーケティングページより地味です。

しかし、「インターバンク直結!」という大きな文字より、こちらの方が業者の実態を考える材料になることがあります。

ここまで追うと、FX業者選びの見え方が変わる

最初は、

・スプレッドが狭い業者
・レバレッジが高い業者
・ボーナスが大きい業者

だけで比較していたかもしれません。

しかし注文の裏側を知ると、見る場所が変わります。

・その価格はどこから来ているのか?
・どのような流動性へアクセスしているのか?
・顧客との取引で生じたリスクをどう管理するのか?
・約定はどのような方針で行われるのか?
・急変時に流動性が薄くなったとき、どのようなことが起き得るのか?

もちろん、一般のトレーダーがすべてを調査する必要はありません。

しかし、

・Aブックだから安心?
・ECNだから透明?
・Tier1だから最高?

というラベルだけで判断するより、はるかに現実に近い見方ができるようになります。

そして、ここまで来るとFX業者によってスプレッドや約定結果が違う理由も、単なる「業者の設定」だけではないことが見えてきます。

その奥には、流動性の構造があります。

まとめ – あなたの注文の「その先」を追うと、FX市場の形が見えてくる

この記事では、

「Aブックで外部へ出た注文は、その後どこへ行くのか?」

という疑問からスタートしました。

追いかけてみると、単純な一本線ではありませんでした。

顧客が注文する

FX業者が受ける

顧客フローを内部化・ネッティングする

必要な市場リスクを外部でカバーする

LPなどの流動性へアクセスする

複数の価格がAggregationされることもある

Prime BrokerやPrime of Primeなどの信用・取引関係が存在する

銀行やその他の大規模な流動性供給者へつながる

そして、巨大なFX市場のネットワークへ

ここで重要なのは、

この順番がすべての注文に共通する一本道ではない

ということです。

あなたが1Lot買ったから、1LotがそのままLPへ行き、Prime Brokerを通り、銀行へ行く。

そんな単純な構造ではありません。

・FX業者は顧客全体のリスクを管理します
・内部で相殺することもあります
・外部でヘッジすることもあります
・外部へ出たリスクも、複数の流動性源の中から処理されます

そして、そのさらに先には複数の金融機関や電子的な取引ネットワークがあります。

つまり、

あなたの注文の「行き先」を知ることは、FX市場そのものの構造を知ることでもあります。

しかし、ここまで追跡してきて、一つ大きな疑問が残りました。

私たちは何度も、

・LPが価格を提示する
・銀行が価格を提示する
・複数の流動性源から価格を集める

と説明してきました。

では、その価格はどこから来たのでしょうか。

銀行Aが150.100。
銀行Bが150.101。
LP-Cが150.099。

それぞれ違う価格を提示している。

それなのに、私たちは当たり前のように、

「現在のUSD/JPYは150円○○銭」

と言います。

・世界共通のFX取引所はありません!
・世界共通の一枚の板もありません!

それなら、FXの価格はいったい誰が決めているのでしょうか。

そして、あなたのMT4に表示されているUSD/JPYは、誰の価格なのでしょうか。

注文の行き先を追跡した先で、今度は「価格そのもの」の正体が気になってきます。

次の記事では、インターバンク市場のさらに奥へ進みます。

「市場価格」という、あまりにも当たり前に使っている言葉。

次は、その当たり前を疑ってみましょう…

次回|FX市場の裏側・第03話

あなたの注文を追いかけて、

FX業者からLPへ…、Aggregatorへ…、Prime Brokerへ…

そして、ついにインターバンク市場までたどり着きました。

しかし…

ここで追跡を終えるには、一つ大きな疑問が残っています。

そもそも「インターバンク市場」って、どこにある?

東京証券取引所のような巨大な建物があるのでしょうか。

世界中の銀行が接続する、一つの巨大な取引所があるのでしょうか。

そしてもっと根本的な疑問があります。

USD/JPYが150.00円から150.01円へ動くとき、その価格を決めているのは誰なのでしょうか?

次回は、注文を追う旅から一歩離れて、「FX市場そのものの正体」へ潜ります。

【FX市場の裏側|第03話】

注文が到着した「その場所」で、今度は価格が生まれる仕組みを追います。

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